原題 | Coming Through The Rye |
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制作年・国 | 2015年 アメリカ |
上映時間 | 1時間37分 |
監督 | 脚本・監督:ジェームズ・サドウィズ |
出演 | アレックス・ウルフ、ステファニア・オーウェン、クリス・クーパー、ジェイコブ・ラインバック、エリック・ネルセン、ジェイコブ・ローズ、エイドリアン・パスダー他 |
公開日、上映劇場 | 2018年10月27日(土)~ヒューマントラストシネマ渋谷、テアトル梅田、MOVIX京都、11月10日(土)~シネ・リーブル神戸、そのほか全国順次ロードショー |
若さゆえの一所懸命に、
愛おしさがじわじわと胸に広がる
1969年のアメリカ・ペンシルベニア州。マッチョな運動部が権力を持つ全寮制のクランプトン高校で、演劇部に席を置いているため、ヤワな奴と馬鹿にされている少年ジェイミー(アレックス・ウルフ)だが、彼はある目標を見つける。それは当時の若者にとってバイブルともいえるJ,D,サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』を脚色し、自ら主人公のホールデンを舞台で演じること。だが、舞台化するには、作者サリンジャーの許可が必要である。そして、それ以前に、隠遁生活を送っているサリンジャーの居場所を突き止めなければならない。夢をかなえるため、ジェイミーは寮を飛び出し、サリンジャーを探しに行く旅に出るのだが…。
周囲からちょっと変わっていると見られている一つの青春のカタチを、監督ジェームズ・サドウィズは自身の実体験をもとに、鮮やかにあぶり出していく。ちゃらんぽらんなジェイミーの兄や、ジェイミーの考えを理解すると共に恋心を隠せない少女ディーディー(ステファニア・オーウェン)など、主人公を取り巻く人物像の輪郭もきちんと浮かび上がらせている。ディーディーは、ジェイミーの何倍もの恋する気持ちを持っていて、それが切ないのだけれど、綿毛が飛び交う野原でのキスシーンはとても美しい。
伝説の作家サリンジャーを演じるのは、名優クリス・クーパー。私が好きな映画『フィールド・オブ・ドリームス』(1989年、フィル・アルデン・ロビンソン監督)では、ケビン・コスナー演じる主人公が、明らかにサリンジャーをモデルとした作家(映画の中ではテレンス・マンという名前だが)を探しに行く展開となり、その作家を演じていたのは、ジェームズ・アール・ジョーンズだった。監督自身、サリンジャー本人に会ったらしく、風貌的にはジェームズ・アール・ジョーンズよりもクリス・クーパーのほうが断然サリンジャーの実像に近いだろうが、頑固さではどちらも負けていない。社会的なさらなる成功よりも静かな余生を選んだ頑固作家に、ひよっこのジェイミーがどう立ち向かうかが、本作の見どころともいえよう。
ジェイミーによる舞台化がどうなったかは、スクリーンに向かってからのお楽しみというところだが、ほんのり甘酸っぱい青春という、誰もが持ちうる無鉄砲で一途な時期へのノスタルジーが、この映画の骨格を作っている。青春っていいなあと思うか、若いっておバカやなあと感じるかは人それぞれだが、あの時期にしか持ち得ないものって、確かに存在するのだ。若い頃に勢いでページを繰った『ライ麦畑でつかまえて』を、じっくり読み返してみたいという気にもさせる、この秋の注目作である。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://raimugi-movie.com/
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