原題 | MONTPARNASSE Bienvenue |
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制作年・国 | 2017年 フランス |
上映時間 | 97分 |
監督 | レアノール・セライユ |
出演 | レティシア・ドッシュ、グレゴワール・モンサンジョン、スレマン・サイエ・ンディアエ他 |
公開日、上映劇場 | 2018年9月15日(土)~テアトル梅田、豊岡劇場、10月6日(土)~出町座、神戸アートビレッジセンター他全国順次公開 |
受賞歴 | 第70回カンヌ国際映画祭カメラドール受賞 |
~彷徨って、ぶつかって、傷ついて。それでも彼女は前を向く~
おでこに大きな絆創膏を貼り、自分を捨てた恋人への恨みをまくし立てる。「パリもフランスも大嫌い!」とヒロインが声高に叫ぶフランス映画なんて、今まであっただろうか?『若い女』というオーソドックスなタイトルとは裏腹に、オープニングからカウンターパンチを食らわされる。監督のレアノール・セライユをはじめ、全スタッフが女性のチームで作られた作品は、ヒロインだけでなく、様々な立場の女性たちの本音を美化することなくさらけ出す。
教授で写真家のジョアキム(グレゴワール・モンサンジョン)と大学時代から10年間恋愛関係だった31歳のポーラ(レティシア・ドッシュ)は、突然別れを切り出され、職なし、家なしの窮地に陥る。ジョアキムの飼い猫、ムチャチャを連れ出し、パリの街で腰を落ち着ける場所を探そうとするが、行く先々で猫を理由に追い出され、久しぶりに帰った実家の母にも2度と会いたくないと言われる始末。なんとか住み込みのベビーシッターの職にありつくことができたポーラは、さらに百貨店の下着売り場で販売員として働くことになったのだったが・・・
友人宅に始まり、食料品店、墓地、質屋、本屋、百貨店、実家と、時には居場所を、時には職を求めて、ポーラは彷徨う。パリの日常風景を映し出しながら、猫がいることを隠していたり、問い詰められると悪態をついてしまったり、30歳という年齢の割には、まだまだ未熟な点が多いポーラが必死で生きようとする様子を捉えている。生きていくために小さな嘘をついてでも周りに順応しようとするポーラを、レティシア・ドッシュはコミカルかつパワフルに演じている。ハリウッドではグレタ・ガーヴィグ(『フランシス・ハ』)のこじらせ女子ぶりが人気だが、それよりもっと感情の起伏が激しく、心を揺さぶるキャラクターだ。不器用な生き方だが、自分自身の気持ちを偽らないポーラが少し羨ましい気持ちにもなる。
地下鉄で幼馴染と勘違いして話しかけてきた女性の家に泊まる仲になることもあれば、百貨店の警備員のウルマンに、最初こそ失礼な物言いをしながらも心打ち解けるようになったり、ベビーシッターで世話をしていた小学生と母親が嫉妬するぐらい心が打ち解けたりもする。様々な出会いを経て、恋人にだけ向いていたポーラの視線が、社会に向かい、そして束縛から解き放たれるのだ。
パーティーやクラブでのダンスシーンや、パリの街を散歩するシーンをはさみ、ポーラが自分と向き合う時間を私たちも共有する。そしていつの間にかポーラが愛おしくなっていく。鮮やかでフォトジェニックな映像にも注目したい等身大の女子物語は、どんな逆風でも生き抜くたくましさを提示してくれた。
(江口由美)
(C) 2017 Blue Monday Productions