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『LBJ ケネディの意志を継いだ男』 

 
       

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作品データ
原題 LBJ 
制作年・国 2016年 アメリカ
上映時間 1時間37分
監督 ロブ・ライナー(『スタンド・バイ・ミー』、『ミザリー』、『最高の人生の見つけ方』)
出演 ウディ・ハレルソン(『ラリー・フリント』『スリービル・ボード』)、マイケル・スタール=デヴィッド(『クローバーフィールド/HAKAISHA』)、リチャード・ジェンキンス(『扉をたたく人』、『シェイプ・オブ・ウォーター』)、ジェフリー・ドノヴァン、ジェニファー・ジェイソン・リー他
公開日、上映劇場 2018年10月6日(土)~シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、京都シネマ

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地味な米大統領の素顔に迫ってみたら、
意外や意外、オモロイ

 

LBJってだれ? 即答できる人は、よほどアメリカに精通した人だと思います。ぼくはピンとこなかった。でも、映画のサブタイトル「ケネディの意志を継いだ男」を見て、あゝ、あの大統領のことかと顔が浮かんできました。第36代米大統領のリンドン・B・ジョンソン(1908~73年)です。ぼくの青春時代、この大統領はベトナム戦争を泥沼化させた張本人とあって、ゆめゆめ好感を抱く人物ではありませんでした。


それを名匠ロブ・ライナー監督がこれまで知られていなかった面に焦点を当て、ジョンソン像を見直すべしとの願いを込めて撮ったのが本作です。地味な人物なので、正直、試写を観る前、映画になるんやろかと首を傾げていましたが、なかなかどうして、濃密な人間ドラマに仕上がっていました。とにもかくにも、ジョンソンに扮したウディ・ハレルソンの演技さまさまです。顔はあまり似ていないけれど、雰囲気が本人そっくりでした。


LBJ-500-1.jpgジョンソンはテキサスの生粋の南部人です。政界に進出後、民主党の上院議員を長らく務め、その後、院内総務として議会で大きな権限を握っていました。百戦錬磨の策略家で、とことん現実主義者。実業家丸出しに合理性を求め、緻密にソロバンをはじく。しかも尊大で、威圧的ときている。どことなく今のトランプ大統領と類似性がありますが、政治的にはプロ意識に徹していたので、似て非なる存在でした。そんなところをハレルソンが見事に出し切っていました。


ジョンソンといえば、ケネディを想起させます。若きエリート上院議員のジョン・F・ケネディが1960年11月8日、43歳で第35代大統領選挙に勝利するや、ジョンソンは副大統領に任命されます。そのとき院内総務に留まるか、副大統領になるか、大いに悩みます。副大統領は名ばかりで、ほとんど権限がありません。やり手のジョンソンにしてみれば、物足りない。でも大統領からの立っての頼みとあって断れない。案の定、副大統領のポストに収まるや、存在感が希薄になり、後悔する様子が映画の中で赤裸々に描かれています。


LBJ-500-5.jpgところが、神はジョンソンを世界のリーダーに選んだのです。忘れもしない1963年11月22日、テキサス州ダラスでのケネディ大統領暗殺事件。ケネディ役のジェフリー・ドノヴァンは同じアイリッシュ系ゆえ、驚くほどケネディ本人に似ているショットがありました。この大惨事の98分後にジョンソンが次期大統領に就任。というか、就任させられたと言う方がええかもしれませんね。それも大統領専用機「エアフォース・ワン」の機内で。


まさに棚から牡丹餅。このとき55歳。ここから映画は怒涛の如く政治の世界でもまれていくジョンソンに迫っていきます。余談ですが、後年、ケネディ暗殺の主犯はジョンソンだったという説が出ました。理由は大統領職を欲していたから。そんなアホなことありますかいな。


前任のケネディは精悍でカリスマ性があり、いたって派手。高々と理想主義を掲げ、マスコミの注目度も抜群でした。ジョンソンはしかし、真逆です。大統領になっても、地味なキャラクターは変えようがなく、どこまでも実務派。哀しいかな、ケネディと比較されてばかりで、全く目立ちません。常にケネディの陰……。面白くなかったでしょうね。


LBJ-500-3.jpgこの時期、アメリカ国内では、黒人差別を撤廃する公民権運動が最大の問題になっていました。映画はここに焦点を当てます。公民権を認める流れを作ってきたケネディに異を唱えていたジョンソンが大統領になるや、ガラリと方針を転換させ、その路線を受け継ぎます。映画を観ると、その真相がよくわかりました。


普通、トップが変わると、部下の人事を刷新するのが定石ですが、この人は閣僚のほとんどを現状のままにしていました。ケネディ支持者への配慮だったのでしょうかね。そこまで気を配っているのに、ケネディの弟、ロバート・ケネディ(マイケル・スタール=デヴィッド)がやること為すことすべてに反対し、波風を立てます。「どうして私のことが嫌いなんだ」とジョンソンが単刀直入に訊くシーンが映画の中で一番ドラマチックに思えました。


主義主張がかみ合わなかったのでしょうが、それ以上に生理的に相性が合わなかったような気がします。こうなれば、もうどうしようもありませんね。メリハリ的にドロドロ感を出すために、2人の確執が結構、しつこく描かれています。


LBJ-500-4.jpgさらに、公然と公民権運動に反対する師匠格の上院議員リチャード・ラッセル(リチャード・ジェンキンス)との絡みも物語の大きな重しになっていました。ほんま、やっかいな相手です。絶大な力を有するこの長老議員の睨みをいかにはね返すか。「古きアメリカ」との決別ともいえるシークエンス、非常に見ごたえがありました。


映画は公民権法制定という画期的な出来事をクライマックスに設えていましたが、ぼくとしては、当時のアメリカ外交・国防の最大懸案事項であったベトナム戦争にも触れてほしかったです。冒頭で触れたように、戦争を拡大させたのがジョンソン政権の最大の汚点でしたから。


ジョンソン大統領が、全米をはじめ世界各地で盛り上がったベトナム反戦運動をどう受け止めていたのか、さらに北ベトナムへの爆撃(北爆)を始めながら、途中で中止させた経緯……。この人の人気が凋落する後半こそ苦悩が多く、さらに濃密なドラマがあったと思うのですが、あえてそこまで足を踏み入れなかった。欲張れば、上映時間が3時間以上の超大作になってしまいますかね(笑)。


LBJ-500-2.jpg最後に……。ジョンソンを精神的に支えた妻レディ・バードに扮したジェニファー・ジェイソン・リー。かつてはハスッパな尖がった役どころが多かったのに、慎ましやかなファーストレディーを演じる年齢になっていたと知り、軽いショックを覚えました。


最後の最後……。ジョンソンの愛飲酒がスコッチ・ブレンデッド・ウイスキーのカティーサークと分かったのは大収穫でした(笑)。


武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト⇒ http://lbj-movie.jp

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