原題 | PLEASE STAND BY |
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制作年・国 | 2017年 アメリカ |
上映時間 | 1時間33分 |
監督 | ベン・リューイン |
出演 | ダコタ・ファニング、トニ・コレット、アリス・イヴ、リヴァー・アレクサンダー、マイケル・スタール=デヴィッド |
公開日、上映劇場 | 2018年9月7日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 |
ファンタジーの力を借りて、
困難を乗り越えていくヒロインの姿が心にしみる
自閉症のため、ソーシャルワーカーの指導を受けながら自立支援ホームで暮らす少女が、脚本コンテストの作品を届けに、はるかロサンゼルスまで初めての旅をする。ファンタジーの力を借りて現実を乗り越えていく姿が淡々と描かれ、心あたたまる。
人とコミュニケーションをとるのが苦手で、思いどおりにいかないとパニックになってしまうウェンディ。毎日の日課を細かく決め、曜日ごとにセーターの色まで決めて、几帳面に日々を送っていた。自ら脚本を書くほどに『スター・トレック』が大好きで、『スター・トレック』の脚本コンテストのため、500ページもの大作を書き上げる。郵送では締切に間に合わないことに気付き、直接、持って行こうと決心。今まで数ブロック先までしか行ったことのなかったウェンディが、誰にも告げずに、初めて一人で、これまで自らに課していたルールを破って、新しい世界へと一歩を踏み出す…。
ウェンディを演じるのは、ダコタ・ファニング。いつもどこか緊張した面持ちで、うつむきがちながらも、強い意思を秘めた表情で、好演。苦労して乗ったロサンゼルス行きの長距離バスを途中で降ろされたり、泥棒にあったり、けがで病院に運び込まれたり、波乱万丈な道中でも、諦めず、がむしゃらに、静かなる情熱と理性で、目標を貫徹しようとする姿から目が放せない。
そんなウェンディの旅に同行するのが、可愛い愛犬のチワワのピート。ウェンディを心配して探しまわるのは、ソーシャルワーカーのスコッティ。仕事熱心なあまり、息子と疎遠になりがちの彼女が、ウェンディ探しの旅を通じて、息子との絆を取り戻していくのは微笑ましい。ウェンディの唯一の肉親、姉のオードリーは、ウェンディと距離を置きながらも、放っておけない優しい性格で、そっと後押ししたくなる。
映画の原題にもなっている「Please Stand By」(そのまま待機)は、『スター・トレック』で、状況が読めない時に、乗組員への指示で使われる言葉。劇中でも、ピンチのたびに、ウェンディが唱える。自分の感情をうまくコントロールできないウェンディが、『スター・トレック』という物語の力を借りて、パニックに陥ることなく現実を冷静に見つめ、困難を切り抜けようとする姿は、深い共感を呼ぶ。
見知らぬ『スター・トレック』ファンが、ウェンディを助けるシーンは、人と人がこんなふうにつながりあえたら、希望が持てると思わずにはいられない。劇中に挿入される『ウェンディ版スター・トレック』の砂漠の光景と、ドラマの重なり具合も見事で、脚本も秀逸。ファンタジーは人と人をつなげ、困難を乗り越える力をくれる。ウェンディが紡いだ物語は、誰の胸に届くのだろうか。映画を見届けてほしい。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://500page-yume.com/
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