原題 | On Chesil Beach |
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制作年・国 | 2017年 イギリス |
上映時間 | 1時間50分 |
原作 | イアン・マキューアン【原作「初夜」村松潔訳、新潮クレスト・ブックス】 |
監督 | ・脚本:ドミニク・クック(BBC「嘆きの王冠~ホロウ・クラウン~」) |
出演 | シアーシャ・ローナン、ビリー・ハウル、アンヌ=マリー・ダフ、エイドリアン・スカーボロー、エミリー・ワトソン、サミュエル・ウェスト他 |
公開日、上映劇場 | 2018年8月10日(金)~TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマ、T・ジョイ京都、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー |
好きだからうまくいく…とは限らない。
人生って、ホント大変!
昔好きだった人と、もし人生を共にしていたら、今とどう違っていただろうと考えたことはありませんか。幸せをつかんでいただろうか、それとも破綻して不幸せだったろうかなんて、想いを巡らすのですが、「もし…」は結局、未練でしかありません。自分に与えられたのは、自分が求めていたものでなく、「今、ここ」に至るものでしかなかったのですから。
そういうセンチメンタルな想いに貫かれたのは、この映画を観たからかもしれません。しかしながら、つい同情したくなったのは、ヒロインのフローレンス(シアーシャ・ローナン)でなく、男性のエドワード(ビリー・ハウル)のほうなんです。フローレンスとエドワードは若さ弾ける頃にお互いを見出し、結婚を誓い合い、初夜を迎えるのですが、ああ何ということか、フローレンスはエドワードを拒否してしまう、そうして彼らの結婚生活への道はあっという間に閉ざされてしまうのです。
映画の視線は、すべてのもととなった初夜の場面に何度も立ち返りますが、本当の原因は何だったのでしょう。成功を夢みるヴァイオリニストのフローレンスと、歴史学者をめざすエドワードという、全く異なる人生の目標のせい?いえいえ、違う夢や職業を持つ幸せなカップルはたくさんいます。では、この結婚に対して両手を上げて後押ししているとは思えないそれぞれの家族の事情。いえいえ、家族の反対を押し切っても、すばらしい家庭を築くケースも多く見られるでしょう。
あれこれ考えるに、強い意思があったはずなのに、未来に対するほんの少しの不安、相手に対するほんの少しの違和感を覚えただけで、一線を越える決心がつかず引き返してくる人がいるということ。「結婚なんて、はずみなのよ」と言う人がいますが、まさにそれ。フローレンスは、はずみを許容できず、それによってエドワードは心に大きな傷を抱えたまま、その後の人生を送ることになるわけです。
終盤、歴史学者の夢を諦めたのか、レコード屋の店主におさまっているエドワードのもとに、一人の少女がやって来ます。この場面で、小さな(あるいは大きな)伏線に気づかされ、泣き虫の観客の目を潤すクライマックスシーンへとつながっていきます。老境に入ったフローレンスはある意味でしたたかに、幸せをかちとったように見えるのに反して、エドワードは悲しき青春の地点に置き去りにされたような印象を受け、私はここで彼のためにしみじみ泣きたくなったのです。それでも、彼は大きな拍手を送ります。フローレンスに対して、それからそういう意識はなくとも、耐え抜いて生き延びた自分自身に対して。
そして私は思うのです。これは美しい恋物語などではなく、残酷で非情な青春の傷跡を背負い続けた人の背中を、そっとハグしてあげる物語なのだと。世の中にはそういう人たちがいることを気づかせてくれる映画なのだと。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://tsuisou.jp/
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