制作年・国 | 2018年 日本 |
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上映時間 | 54分 |
監督 | 米林宏昌(『カニーニとカニーノ』)、百瀬義行(『サムライエッグ』)、山下明彦(『透明人間』) |
出演 | 声:木村文乃、鈴木梨央(『カニーニとカニーノ』)/尾野真千子、篠原湊大、坂口健太郎(『サムライエッグ』)/オダギリジョー、田中泯(『透明人間』) |
公開日、上映劇場 | 2018年8月24日(金)~全国ロードショー |
~名匠のオリジナル短編作品が集結!
アニメーションに新しい風を吹かせるポノック短編劇場の魅力とは〜
アニメーション映画でも2時間を下らない作品が多い中、アニメーション短編3本で54分という構成に驚く人も多いのではないだろうか。私もその一人だったが、「ポノック短編劇場」という見出しを見て、大いに懐かしさを覚えた。私が子どもの頃は、夏休みや冬休みになるとアニメ三本立てを1プログラムにした映画まつりなどをよく見た覚えがあったからだ。ただその映画まつりと違い、今回のスタジオポノック(『メアリと魔女の花』を制作)による短編劇場は、一つのテーマに基づいて作られた完全オリジナルの短編作品をパッケージにしている。今の日本のアニメーション界で、それを成し遂げるのは、特に長編の場合は相当大変なことだ。だが、短編ならより作家それぞれの自由な発想を生かし、作品作りに挑むことができる。一見、「子ども向け」に見えるビジュアルではあるが、そういう背景が伺い知れるだけに、実はかなりの野心作が潜んでいるのではないか。そんな期待を抱かせてくれた。
ポノック短編劇場、記念すべき第一弾のテーマは「ちいさな命」。短編劇場ならではの仕掛けとして、オープニングテーマとエンディングテーマのアニメーションが用意され、木村カエラが歌う「ちいさな英雄」(8月22日デジタルリリース)の弾けるような歌詞が、別世界に誘ってくれるかのようだ。
米林宏昌監督(『メアリと魔女の花』)の最新作『カニーニとカニーノ』は、海の底で暮らすカニ一家の物語。冒頭は実写かと思うぐらい美しい森の中の川が映し出され、兄のカニーニと妹のカニーノが父や母、海の生き物たちと暮らす日々が描かれる。危険がいっぱいの海の中、さらに大雨などで川の流れが速くなったら命がけだ。食うか食われるかの世界だが、母はまた新しい命を宿し、たくさんの妹弟たちができる。海の生き物になった気持ちになれるCGも駆使したアドベンチャー映画だ。
高畑勲監督の右腕として長年活躍してきた百瀬義行監督の『サムライエッグ』は、色鉛筆風で優しいタッチのアニメーションで描く食物アレルギーを抱える息子と快活な母とのひと夏の物語。卵アレルギーを持ち、食べる物に細心の注意を払わなければいけない少年シュンが、自らの境遇に嘆くことなく、両親や学校の友達と前向きに生きる姿を瑞々しく描いている。特に母親役の尾野真千子は、NHK朝ドラ(『カーネーション』)以来となる岸和田弁を披露し、息子のために頑張るだけでなく、自分も生きがいを持って生きるたくましい母親を熱演している。
スタジオジブリの作品で、原画、原画監督を務めてきた山下明彦監督の『透明人間』は、ぐっと雰囲気が変わり、『笑ゥせぇるすまん』のようなちょっとダークな世界観が魅力的だ。注目すべきは、透明人間は何ができて、何ができないのか。また、雨に濡れた透明人間の描写も秀逸。オダギリジョーが透明人間役で、自身に降りかかる様々な出来事に対する「透明人間」の反応を体現。キーマンのような役割の田中泯も、独特の雰囲気を持つ本作に馴染んでいた。
3つの全く違う世界観を持つ作品を堪能した後、また明るく流れるエンディングテーマで終わるポノック短編劇場。包み紙はキャンディー風だが、中身は甘い飴もあれば、すっぱい梅もあるようなアニメーション体験は、これで1時間弱?と思うぐらい濃いアニメーション体験になることだろう。このポノック短編劇場が、アニメーション作家の登竜門になり、また観る側もオリジナルアニメの豊かさ、面白さに気づくきっかけになることを心から期待したい。
(江口由美)
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