原題 | Un Bacio |
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制作年・国 | 2016年 イタリア |
上映時間 | 1時間46分 |
監督 | イヴァン・コトロネーオ |
出演 | リマウ・グリッロ・リッツベルガー、ヴァレンティーナ・ロマーニ、レオナルド・パッザッリ、トーマス・トラバッキ、スージー・ラウデ、ジョルジョ・マルケージ、デニス・ファゾーロ、アレッサンドロ・スペルドゥーティ他 |
公開日、上映劇場 | 2018年8月4日(土)~シネ・リーブル梅田、9月8日(土)~京都シネマほか全国順次ロードショー |
輝ける青春は表舞台。
そして、裏舞台でうごめくのは、“周囲に押し潰される”残酷さ
青春ドラマが持つ甘酸っぱさを保ちながら、現代的な問題を提示し、本国イタリアでヒットしたほか、ヨーロッパ各地の映画祭で受賞した話題作。2008年にアメリカで実際に起きた「ラリー・キング殺人事件」をもとに監督イヴァン・コトロネーオが小説を書いて出版、さらに映画という形にして世の中に送り出した。男子2人、女子1人のティーンエイジャーが、まわりの目を気にせずに育てようとした友情と恋、それが予想もしない衝撃的な事件を呼び寄せ、観る者の心を穿つ結末となっている。
イタリア北部の町・ウーディネ。故あってトリノからこの町の里親に引き取られた少年ロレンツォ(リマウ・グリッロ・リッツベルガー)は、派手なファッションが大のお気に入り。やたら目立つオーラを振りまき、通い始めた学校でも“かなり変な奴”という印象を皆に与えるが、ちっとも動じない。ロレンツォが仲良くなったのは、“尻軽女”と陰口をたたかれている少女ブルー(ヴァレンティーナ・ロマーニ)と、彼女に密かに恋しているバスケットボール部の少年アントニオ(レオナルド・パッザッリ)だ。おしゃべりに花を咲かせ、若者らしいおふざけをして…。だが、彼らを好意的に見ない生徒たちがインターネットで「アンチ・ロレンツォの会」を立ち上げ、それへの対抗措置がとんでもない“炎上”となる。
イタリア映画やスペイン映画を観ていると、「おおっ!」と声を上げたくなるような鮮烈な色使いに目を引かれることがある。本作でも、ロレンツォのポップなファッション・コーディネートや、主人公たちが住む家のインテリアが素敵だ。また、カラフルなイラストが画面に現れたり、ミュージック・ビデオのようなダンスシーンが差し込まれたり…という遊び心も楽しい。
しかしながら、強く感じるのは、自分と違うものを排除しようとする人間のダークな傾向であり、大人のみならず、人格形成の種まき期にある若者にこそ、それは顕著であるといえよう。そして、SNSという現代的ツールがこれに拍車をかける。匿名でならどんなことも言える、それを社会にいともたやすく拡散できる。その恐ろしさに気づいている人は思っているほど多くはない。この危機的状況に警鐘を鳴らすべく、イヴァン・コトロネーオ監督やスタッフ、キャストの面々がイタリア各地を回り、高校生を集めたティーチイン上映会を開いたという。これは実に凄い活動だと思う。
映画は或る別の結末をも用意していて、そこから監督の切なる思いが汲み取れる。悲劇は、ボタンの掛け違いがなければ起こらなかったかもしれない。人それぞれの個性を認め合い、受け入れることが当たり前の社会であればなあ、と思いつつ、最初で最後のキスシーンの衝撃力をかみしめていた。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://onekiss-movie.jp/
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