原題 | ORCHESTRA CLASS |
---|---|
制作年・国 | 2017年 フランス |
上映時間 | 1時間42分 |
監督 | ラシド・ハミ |
出演 | カド・メラッド、ハミール・ハスミ他 |
公開日、上映劇場 | 2018年8月18日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル梅田、25日(土)~シネ・リーブル神戸、9月8日(土)~京都シネマ他全国順次公開 |
~出自の違う子どもたちと中年バイオリニストが音楽を通じて築くものとは?~
若年層や社会的弱者層に、音楽を通じて生きる希望を与え、音楽の魅力を再発見してもらう社会プログラムが様々な国から誕生している。ブラジル映画『ストリート・オーケストラ』(15)では、ベネズエラで誕生した音楽教育プログラム「エル・システマ」のブラジル版としての活動を基に、ファヴェーラ(スラム)で生きる子どもたちに音楽を教え、導いていく先生の姿を描いた。
今回ご紹介するフランス映画『オーケストラ・クラス』は、15年、パリ19区にオープンしたフィルハーモニード・パリが運営する子どものための音楽プログラム、Démos(デモス)にインスピレーションを得て制作されている。数十年後にもクラッシックの火を絶やさないように若い頃からクラッシック音楽に親しんでもらう。受動的にクラッシックを聞かせるのではなく、自分で演奏できるように学校単位で演奏の指導をし、最終的にはフィルハーモニード・パリで練習の成果を発表できるのだ。文化を継承していくことを真剣に考えているフランスらしい取り組みだが、実際、音楽に関心のない子どもたちを指導するのは、並大抵のことではない。指導者と子どもたちの成長物語は、移民が多い19区ならではの学校模様も垣間見える。多様な価値観の中で自分の居場所を見つけようとする子供達に注目したい。
やんちゃな子どもたちにクラッシック音楽のバイオリンを教えることになるのは、バイオリニストとしてプロのカルテットで活動を続けてきたシモン。プロでの仕事がなくなり、家族ともうまくいかずに孤独な状態のシモンは、パリ19区にある小学校6年生にバイオリンを教えることになる。楽器の持ち方も知らず、言いたいことを主張してばかりの子どもたちを前に閉口してしまうシモンだったが、窓の外からその様子を羨ましそうに眺めていたアフリカ系の少年アーノルドとの出会いをきっかけに、彼らときちんと向き合うようになっていく。子どもたちも、バイオリンと悪戦苦闘しながら、音を出す楽しさ、合奏する楽しさに少しずつ目覚めていく。
クラッシックもバイオリンも、今の子どもたちからすればあまり馴染みのないものだろう。それでも、シモンがお手本としてマイバイオリンを取り出し、優雅に弾き始めると、子どもたちの表情が一瞬にして変わる。感性豊かな子どもたちには、プロが奏でる音色の素晴らしさが、音楽に詳しくなくてもやはり分かるのだ。中でもアーノルドは真剣にシモンのような演奏家になりたいと願い、エッフェル塔が遠くに見える家の屋上で練習を重ねる。母親に静止されても練習だけはやめず、最初はアーノルドを仲間と見なかった学友たちも、彼を中心にした屋上練習に加わるようになるのだ。どんなバックグラウンドがあろうと、コンサートという一つの目標に向かう仲間としての絆が芽生える。音楽の力がそこにあるのだ。
子どもたちの成長だけではなく、指導者として生徒たちと向き合うことになったシモンの人間的な成長もこの物語の核となる。独りよがりになりそうな時、練習場が火事に見舞われた時、助けてくれる人たちがいた。教員仲間もしかり、生徒たちの親たちもしかり、様々な周りの人を巻き込んで、小さなオーケストラ・クラスは、大きなコミュニティとなる。その中から未来のクラッシック音楽の担い手が誕生する可能性も秘めているのだ。フィルハーモニード・パリという最高の舞台での演奏は、生徒たちの人生に大きな喜びと自信を与えただろう。音楽も、他人を理解するのも一筋縄ではいかない。だからこそ、取り組み甲斐があることを、『オーケストラ・クラス』が教えてくれた。
(江口由美)
(C) 2017 / MIZAR FILMS / UGC IMAGES / FRANCE 2 CINEMA / LA CITE DE LA MUSIQUE - PHILHARMONIE DE PARIS