原題 | ON THE BEACH AT NIGHT ALONE |
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制作年・国 | 2017年 韓国 |
上映時間 | 1時間41分 |
監督 | ホン・サンス |
出演 | キム・ミニ、ソ・ヨンファ、クォン・ヘヒョ、チョン・ジェヨン、ソン・ソンミ、ムン・ソングン、アン・ジェホン、パク・イェジュ他 |
公開日、上映劇場 | 2018年6月16日~ヒューマントラストシネマ有楽町、6月23日~シネ・リーブル梅田、今夏~シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国順次公開 |
受賞歴 | 第67回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞 |
~酔っ払い演技に本音が溢れ出す!ホン・サンス×キム・ミニが描く恋のあとさき~
キム・ミニを主演にしたホン・サンス監督の新作のうち、『それから』(17)に引き続き公開されるのが、第67回ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞受賞作『夜の浜辺でひとり』だ。この作品は、『それから』とはあらゆる点で真逆をいくところが実に面白い。そして、ホン・サンス監督とキム・ミニのプライベートでの関係を思わせるような設定、会話にも驚かされる。セルフパロディー、いや、ドキュメンタリー風ドラマとでも言おうか。その生々しい悩みっぷりや発散ぶりを、洗練された映画にしてしまうホン・サンス監督の手腕に、やはり脱帽したくなるのだ。
今回キム・ミニが演じるのは、既婚男性との不倫の末、キャリアを捨ててドイツ・ハンブルグにやってきた女優・ヨンヒ。週末には必ずハンブルグに来ると言う男性の言葉に半信半疑なヨンヒは、現地に住む女友達のジヨン(ソ・ヨンファ)と公園を散歩しながら、本当に自分が望むものは何なのか確かめようとしていた。厳かなクラッシック音楽が流れる中、楽譜店で店主オリジナルの曲に触れ、自らもピアノに向き合ったり、ジヨンの知り合いのドイツ人夫妻の家に招かれたり、異国での触れ合いを体験しながら、空いたお腹を満たすように、空虚な心を満たそうとする。そして浜辺に辿り着くのだ。
物語中盤からは、舞台が韓国の江陵(カンヌン)に移る。韓国で一番きれいな街と言われる場所には、先輩のジェニ(ソン・ソンミ)や昔なじみのチョンウ(クォン・ヘヒョ)と会い、仲間たちと飲みながら語り合ううち、ついついヒートアップ。さらに、海辺で横になっていると、ロケハンをしていた撮影スタッフに声をかけられ、因縁の相手と同席する羽目となり…。
『それから』はモノクロ映像で、不倫相手に間違われた新入社員役のキム・ミニの冷静さの中に、的確に物事を捉え、前向きに生きようとする姿が印象的だった。本作では、海外ロケも交え、様々な人たちと出会いながら、不倫後の自らの生き方を懸命に模索する女優の姿が街や海辺を彩る風景と共に描かれる。しかも不倫相手は映画監督という設定なのだから、酔っ払って本音をさらけ出すシーンは真に迫っている。『それから』ではモテ男役だったクォン・ヘヒョが全くもてない男になっているのも、ご愛敬だ。恋自身が夢物語であると言わんばかりの演出も施され、一筋縄ではいかないあたりも、ホン・サンス監督らしさを感じる作品。キム・ミニというミューズを最大限に輝かせた海辺のシーンは、忘れがたい余韻を残すことだろう。
(江口由美)
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