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『それから』

 
       

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作品データ
原題 The Day After
制作年・国 2017年 韓国
監督 ホン・サンス
出演 クォン・ヘヒョ、キム・ミニ、チョ・ユニ、キム・セビョク
公開日、上映劇場 2018年6月9日~ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、今夏~シネ・リーブル神戸、京都シネマ他全国順次公開
受賞歴 第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作
 

~不倫が題材でも、ホン・サンスの手にかかるとこんなにエレガンス!~

 
韓国の映画監督の中でも、作家性が強く、ミニマムな中に独特な空気感をまとわせる愛の語り手といえば、この人、ホン・サンスだ。この夏、キム・ミニを主演にした新作『それから』『夜の浜辺でひとり』『正しい日 間違えた日』『クレアのカメラ』の4本が連続公開される。『正しい日 間違えた日』以外は全て2017年の作品。いくら全て同じ主演女優とはいえ、1年に3本撮るとは、まさに空気のように映画を撮る監督だと驚かずにはいられない。
 
 
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最初に公開される『それから』は、不倫で右往左往する評論家の男、ボンワン(クォン・ヘヒョ)が主人公だ。オープニングから妻がボンワンの浮気を問い詰める会話がモノクロで映し出される。職場不倫をしていたボンワンだが、その関係は終わったはずだった。逃げ場のように見える自身が経営の出版社へ出勤すると、新入社員、アルム(キム・ミニ)が初出社。その昼、ボンワンと食事を取っている時、いきなり「生きる理由は?」と哲学的な問いを投げかける。うわべだけではない会話に喜びを感じるボンワンだが、浮気の真相を確かめに会社に乗り込んだボンワンの妻が、アルムにビンタを喰らわせる。
 
 
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妻には勘違いされ、さらに別れて出て行ったはずの女性社員が戻ってきて、悩みに悩むボンワンの横で、怒りながらも冷静に事の次第を見据え、意見するアルム。この奇妙な四角関係が、感情移入させることなく、実にクールに描かれている。その場しのぎの嘘を塗り重ねて四面楚歌になってしまう男の哀れさ。男を徹底的に追い詰める女もいれば、理不尽なことにも目をつむり、何年か経っても忘れない思い出として許容する女もいる。
 
 
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嵐のような日々も過ぎてしまえば、ほろ苦い思い出。夏目漱石をこよなく愛するホン・サンスがつけた「それから」というタイトルには、不倫という荒波の先にある新しい人生を暗示しているようにも見える。出版社が舞台のミニマムな物語は、男の弱さを表現するクォン・ヘヒョと女の芯の強さを表現するキム・ミニの言葉にはできない関係をも映し出した。エレガンスで、味わい深い詩集のような作品だ。
(江口由美)
 
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