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『女と男の観覧車』

 
       

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作品データ
原題 Wonder Wheel  
制作年・国 2017年 アメリカ
上映時間 1時間41分
監督 ウディ・アレン
出演 ケイト・ウィンスレット、ジャスティン・ティンバーレイク、ジム・ベルーシ、ジュノー・テンプル、ジャック・ゴア、デヴィッド・クラムホルツ、マックス・カセラ他
公開日、上映劇場 2018年6月23日(土)~丸の内ピカデリー、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー

 

~男の裏切り行為に、女の怒りと哀しみが沸々と燃え上がる~

 

ウディ・アレン監督の作品は、で~んとした大作でなく小粒であるのだけれど、そこには人生を見つめる皮肉なまなざしと共に、とんでもない事態に遭う人の肩をそっと包み込むような優しさがあって、飄々としたウィットも添えられ、実に楽しく、味わい深い。日本ならば、十分に後期高齢者といわれる年齢でも、彼の創作意欲はちっとも衰えない。その原動力は、やっぱり“女性”だろう。彼は心底、女が好きなのだ(但し書きで、“美しい女性に限る”かどうか、そんなこと知ったこっちゃないけれど)。女性のことをこよなく愛していなければ、こんな風に描けないし、女優たちの演技のポテンシャルをとことん引き出すこともできないはずだ、と本作を観ても感じたのだ。


kanransha-500-1.jpg今度の舞台は、ニューヨークの街なかでなく、1950年代のリゾート地・コニーアイランド。ヒロインのジニー(ケイト・ウィンスレット)は、遊園地のレストランで働くバツイチのウェイトレスだ。回転木馬の操縦を仕事とする夫のハンプティ(ジム・ベルーシ)とは再婚同士で、ジニーの連れ子リッチー(ジャック・ゴア)と共に、窓からすぐ近くに観覧車が見えるやかましい部屋で暮らしていた。そんなある日、しばらく音信不通だったハンプティの娘・キャロライナ(ジュノー・テンプル)が現れ、日常は一変!リッチーの火遊びや、夫には知られたくないジニー自身の秘密に加え、さらなる問題が浮上し、とうとう抜き差しならぬ事態へと追い込まれたジニーは…。


kanransha-500-2.jpgビーチと遊園地の融合リゾートといえるのが、コニーアイランドで、私が訪れた1995年にはかなり閑散としていた(でも、木製のジェットコースター「サイクロン」は走っていた。そういう怖しいものには乗らなかったけど)。地元の人の話では「昔はセレブのリゾート地だった」というが、この映画を観る限り、その“昔”とは1950年代よりももっと前を意味するようだ。1950年代のコニーアイランドを再現したというこの映像では、キッチュなイメージが濃厚で、まさに庶民のリゾート地。ウディ・アレン監督の『アニー・ホール』で、監督自ら演じた主人公が少年時代に住んでいたのが、コニーアイランドのジェットコースター下の小屋のような家だったように思い出す。遊園地という非日常空間が日常だという設定は、物語上、なかなか意味深なのではないか。


kanransha-500-3.jpgそれはさておき、女二人と男二人の感情がもつれ合う本作で、何に最も目を引かれたかというと、ケイト・ウィンスレットである。彼女に、ここまで凄みを出せるとは予想もしていなかったが、やはり冒頭にも記したように、女優の持てる力を引き出す才に長けた監督の仕業か!生活に疲れた中年の主婦という顔が、夢よ、もう一度と願う恋する女の顔に変化し、驚愕のクライマックスのシーンから結末に至るまで、彼女の表情から目が離せなくなっていく。ジェラシー、信じていた相手に裏切られたという衝撃、その果ての思いも寄らぬ行動(実は非行動なんだけど)、自責の念とプライドの闘い…。それらの一切合財を、圧倒的な演技で観る者に突きつけてくる。実力派シンガーとしても人気のジャスティン・ティンバーレイクが、狂言回しと重要な役どころで出てくるのだが、彼が霞んで見えるほど、ウィンスレットは凄かった、と言っておこう。


(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://longride.jp/kanransya-movie/

Photo by Jessica Miglio (C)2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.

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