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『母という名の女』

 
       

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作品データ
原題 APRIL'S DAUGHTER
制作年・国 2017年 メキシコ 
上映時間 1時間43分
監督 ミシェル・フランコ
出演 エマ・スアレス、アナ・バレリア・ベセリル、ホアナ・ラレキ、エンリケ・アリソン他
公開日、上映劇場 2018年6月16日~ユーロスペース、シネ・リーブル梅田、7月7日~京都シネマ、今夏~元町映画館他全国順次公開
受賞歴 第70回カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞受賞
 

~母が娘から奪いたかったものは“家族”だった~

 
今年のカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した『万引き家族』は、犯罪を通じて深く繋がっている疑似家族の物語だった。是枝監督に限らず、いわゆる家族神話を問う映画は最近よく目にするが、家族、その中でも母娘関係の決裂をこれほどまで痛烈に描く作品はなかなかない。『或る終焉』などのミシェル・フランコ監督がサスペンス調で描く、母親神話をぶった切るようなヒューマンドラマだ。
 
 
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メキシコの海辺、バジェルタの美しい別荘で黙々と朝ご飯の準備をするクララ(ホアナ・ラレキ)の元まで漏れ聞こえる喘ぎ声。妊娠中の妹、ヴァレリア(アナ・バレリア・ベセリル)と彼氏のマテオ(エンリケ・アリソン)は17歳同士。事が終わってリビングに現れたヴァレリアが臨月のお腹をはだけてソファで横たわる。奔放とした、若さあふれる姿は、妊婦ならではの輝きに満ちている。これから訪れる非情な出来事など想像もつかないヴァレリアだが、クララが疎遠になっている母アブリル(エマ・スアレス)を呼び寄せたことから、運命の歯車が狂い出す。
 
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美しいヴァレリアと年頃の娘が二人もいると思えないぐらい若々しいアブリル。若くして妊娠してしまったヴァレリアのことを責めることなく、やさしく受け入れるが、それは17歳でクララを出産した自らの体験があったからだけではなかっただろう。説明が少なく、娘から全てをあっさり奪っていく母親の動機を、様々な手がかりから想像する作りになっているのが面白い。17歳での出産、子育てという苦労の時期を経て、美しすぎる女盛りの母が、娘から奪ってでも取り戻したかったのが若い男との新しい「家族」だとすれば、皮肉な話だ。
 
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母になったヴァレリアが愛娘を探して街をさまよう後半は、まさに娘からの反撃だ。何としてでも娘を探すという強い気持ちで孤軍奮闘するヴァレリアを新星、アナ・バレリア・ベセリルが瑞々しく演じている。最後の最後まで気が抜けないサスペンスのような作品は、母は一人の女であり、ふとした瞬間にその欲望が表出する存在であることを示した。エマ・スアレスが演じた実に挑発的な母アブリルから、それまでの多くは語られていない彼女の結婚生活にも思いを馳せたくなる。そして皮肉にもこの恐ろしい出来事を経て、母としての覚悟を見せた幼いヴァレリアと愛娘が、これからどんな母娘関係を築いていくのか。観終わった後も、様々な想像をよぎらせたくなった。
(江口由美)
 
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(C) Lucia Films S. de R.L de C.V. 2017
 

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