原題 | Last Flag Flying |
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制作年・国 | 2017年 アメリカ |
上映時間 | 2時間5分 |
原作 | ダリル・ポニックサン「LAST FLAG FLYING」 |
監督 | リチャード・リンクレイター |
出演 | スティーヴ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーン |
公開日、上映劇場 | 2018年6月8日(金)~ 大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズ なんば、TOHOシネマズ 二条、シネ・リーブル神戸、TOHOシネマズ 西宮OS 他全国ロードショー |
2つの戦争がもたらした友情あふれる哀しいロードムービー
ベトナム戦争(1955~75年)とイラク戦争(2003~11年)。前者はインドシナの共産化を防ぐため、後者は大量破壊兵器をなくすため。そんな大義名分で超大国アメリカが直接介入し、相手国と自国で多大な犠牲を払った戦争でした。ベトナム戦争は完全に負け戦、イラク戦争は肝心の大量破壊兵器がなかった。今となれば、何の意味があったのかと首を傾げてしまいます。それにも増して思うのは、何でアメリカが遙かかなたの東南アジアと中東まで膨大な兵力を注いだかということ。あの国はよその国で戦争ばかり起こしてはります。
海軍の施設で働いているドク(スティーヴ・カレル)、場末のバーの経営者サル(ブライアン・クランストン)、プロテスタントの牧師ミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)。彼ら中年3人組は30年前の若かりしころにベトナムで戦っていました。つまり退役軍人。この戦争では、軍の規律が乱れ、ベトコン(南ベトナム解放戦線)のゲリラ戦法への恐怖心から虐殺が行われ、国外内で激しい反戦運動が繰り広げられ、天下無敵のアメリカ軍にとって初の試練となりました。
『ディア・ハンター』(1978年)、『地獄の黙示録』(79年)、『プラトーン』(86年)、『フルメタル・ジャケット』(87年)、『7月4日に生まれて』(89年)……。ベトナム戦争を題材にした映画がのちに続々と作られ、この戦争への疑問を投げかけていました。本作の3人はアメリカの正義を信じて戦場へ赴いたのですが、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017年)で描かれていたように、実際はとことん「泥沼状態」に陥っており、大義名分もへったくれもなかったのが現状でした。そのことを彼らは肌身で感じ取っていたものの、ずっと胸にしまい込んでいました。口に出せなかったのです。
ドクが30年間、音信不通だったサルとミューラーに会いに行くところからドラマが始まります。ドクは全く覇気がなく、疲れ切っており、絶望感に打ちひしがれています。なぜなら、愛妻を亡くし、しかも2日前、イラク戦争に出征したひとり息子が「戦死」したからです。息子の遺体を引き取りに行かねばなりませんが、とても1人では耐え切れず、戦友のサルとミューラーにサポートを求めたのです。
3人とも「ベトナム」を引きずっています。ドクの抑制的な性格も多分にそれが影響しているのでしょう。サルは根っからの陽気者で、ハチャメチャな男ですが、そうしないと自分が潰れてしまう、そんなふうにも思えます。ミューラーはかつてヤンチャな兵士だったのに、過去を消し去り、今や打って変わって超俗な世界で静かに生きています。でも、心の奥底では「ベトナム」が重しになっているのです。
サルとミューラーは戦場でドクに対して「とんでもないこと」をしでかし、そのためドクが2年間、海軍刑務所に服役する羽目となりました。だから負い目と罪悪感があります。そのことがあって、ドクがあえて2人に会いに来たのでしょうか。そもそも、どんな「事件」だったのか、3人に何があったのか、それがなかなか明らかになりません。謎をはらませながら展開するロードムービー。それがこの映画の特徴です。
共に命を張って闘った戦友は、普通の友達以上に絆が強まるのでしょうね。「ベトナム」を封印してきたミューラーですら、再会した戦友たちと次第に打ち解け合うようになります。戦地ではよほど仲が良かったに違いありません。こういう場合、当時の映像を随所に挿入するのが定石ですが、ベトナムでの場面はいっさい映りません。小説や落語のように、彼らの会話からイマジネーションによって想像するしかないのです。
今の彼らの使命はドクの息子の遺体を引き取り、しかるべき墓地に運ぶことです。アメリカ東部を南から北へと進んでいく中で息子の死因が判明するところが本作のキーポイント。英雄的な戦死と聞かされていたのに、そうではなかった! 国家(政府)が嘘をついている。そのことがわかり、3人は疑念を深めていきます。ベトナムでも、イラクでも国家は同じことをしていたんですね。イラク戦争の帰還兵で、亡き息子の戦友だった黒人青年ワシントン(J・クイントン・ジョンソン)もそのことを熟知しています。登場人物がみな戦争体験者というのが本作の〈隠し味〉になっています。
「死」と向き合う物語。そこに孤独、虚しさ、痛み、悲しみ、怒りがかぶさってくるので、当然、重苦しい空気に包まれます。それに呼応して空模様も全編、陰鬱で寒々しい。晴れ間は皆無です。それでも、いや、それだからこそ、再会の喜び、束の間の癒しと笑いが活かされていました。テロリストに間違われたり、列車に乗り遅れたりとハプニングの連続。貨物車両の中でワシントンと昔話に興じ、あのドクが大笑いするシーンはことさら秀逸でした。
このトリオのキャスティングが最高ですね。3人3様、個性を際立たせた演技を披露していました。孤愁を漂わせるカレル、クレイジーな面の裏にどこか哀しみを見せるクランストン、安定感を見せるフィッシュバーン。3週間、徹底的にリハーサルを重ねたそうです。リチャード・リンクレイター監督の俳優を信じる、計算し尽くした演出が本作の作風を決定づけていました。ええ塩梅です。
残念に思ったのは、『30年後の同窓会』という邦題。これはちょっとピント外れかな。原題は『Last Flag Flying』。直訳すれば、「はためく最後の旗」。やはり棺桶にかけられる国旗を添えたいですね。ぼくならこんな邦題をつけます。『30年目の再会 国旗に託す哀しみと友情』。ベタすぎるかな。いや、長すぎますね~(笑)。
武部 好伸(エッセイスト)
公式サイト⇒ http://30years-dousoukai.jp
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