制作年・国 | 2017年 日本 |
---|---|
上映時間 | 1時間33分 |
監督 | 監督・脚本:中川龍太郎 |
出演 | 朝倉あき、三浦貴大、川崎ゆり子、高橋由美子、青柳文子、森次晃嗣、志賀廣太郎、高橋惠子 |
公開日、上映劇場 | 2018年5月12日(土)~シネ・ヌーヴォ、元町映画館、出町座 |
受賞歴 | モスクワ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞+ロシア映画批評家連盟特別表彰 |
悲しみで立ち止まったままの心を優しく見つめる…
人はどんな時に手紙を書くのだろう。口にできない思いがある時…。主人公の初海もたくさんの手紙を恋人から受け取っていた。返事を書いた手紙の幾つかは引出しの中。届けられなかった思いは、伝えられることなく眠り続ける・・・。
初海は27歳。3年前に恋人を亡くし、中学校の先生を辞めて、そば屋で働きながら、淡々とした毎日を送っていた。ある日、恋人が残した最後の手紙が舞い込む。戸惑いの中、かつての教え子との再会、染物工場で働く青年・志熊からの告白と、初美を取り巻く周りの出来事がゆっくりと動き出していく・・・。
とりたてて大きな事件が起こるわけではない。でも、見終わって、この映画について考える時、優しさでそっと包み込まれるような不思議な気持ちになる。初海をとらえる優しいまなざしが全編を通じ、あふれていて、一歩踏み出せずにいる初海をじっと見守るような空気感が心に残る。志熊が働く染物工場内に干された手ぬぐいが静かに揺らめく、そのゆったりとした風のように・・・。
冒頭、喪服を着て、春の日差しの中、頭上には桜が咲き誇り、足元には菜の花が咲き乱れる小道に立つ初海の姿を長回しでゆっくりとらえる映像が美しい。映画の中に、たびたび静寂が訪れ、観ている私たちもふと足を留めて、自分の心の内側をのぞいているような気持ちになる。
初海を演じるのは、朝倉あき。高畑勲監督のアニメーション映画『かぐや姫の物語』(2013年)でかぐや姫の声を担当。定められた運命の中で、自分の気持ちに正直に生きようとする姫の思いを情感豊かに伝え、鮮烈な印象を残す。本作でも、自然体の演技で、みずみずしい存在感は秀逸。これからの活躍が期待される。
監督は弱冠28歳の中川龍太郎。本作で、モスクワ国際映画祭の国際映画批評家連盟賞とロシア映画批評家連盟特別表彰のダブル受賞を果たした逸材。高校時代から詩人として活躍したという繊細な感性で紡がれた脚本のゆったりとしたリズムが心地よい。
いなくなること、失うことで、発見するものもある・・・。そう思えるようになったら、悲しみとも向き合えるかもしれない。ずっと悲しみの淵にいた初海は、最後、少しだけ違う地平に立っている…。自分の心に問いかけ、心の声に耳をすますことの大切さを教えてくれる。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://tokyonewcinema.com/works/summer-blooms/
(C)WIT STUDIO / Tokyo New Cinema