制作年・国 | 2018年 日本 |
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上映時間 | 1時間39分 |
監督 | ・脚本:沖田修一 |
出演 | 山﨑努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、青木崇高、吹越満、池谷のぶえ、きたろう、林与一、三上博史他 |
公開日、上映劇場 | 2018年5月19日(土)~全国ロードショー |
~庭から世界が見える。52年間寄り添った妻とモリの心豊かな日常~
山﨑努と樹木希林。長年、日本映画界で活躍してきた二人の初共演、しかも夫婦役となれば、それだけで見逃し厳禁印を押したくなる。山﨑努から教えてもらい画家、熊谷守一の存在を知ったという沖田監督が、「山﨑さんが演じる熊谷さんを見てみたい」という思いを温め続け、実現したのが最新作『モリのいる場所』だ。沖田監督といえば、『キツツキと雨』『横道世之介』等、日常に潜むちょっとした可笑しさを捉え、笑って、ジンとくる映画作りが思い浮かぶが、今回はモリが愛した自宅の庭や、夫婦の会話を通じて、熊谷守一の人生哲学にまで迫っている。
昭和49年、94歳の画家、熊谷守一(山﨑努)は、76歳の妻・秀子(樹木希林)と半世紀以上共に寄り添い、苦楽を共にしてきた。30年前から、守一は様々な生き物が暮らす自宅の庭を生きる拠り所とし、一切外出しない生活を送っている。そんなある日、様々な来客に対応してきた秀子の元に建築中のマンションのオーナーがやってくる。マンションが建つと、守一の庭は日陰となり、庭の生き物たちは行き場を失ってしまう。悩んだ二人が出した結論は…
94歳の守一の日常は、正に生きる仙人のよう。看板を書いてほしいと訪ねてきた温泉旅館主や、写真家やそのアシスタント、隣人も色紙を片手にやってくる。そんな来客からのリクエストにも快く応じる一方、自分が決めた字しか書かない頑固さに思わずニヤリとさせられる。「行ってきます」と家を出る守一に、「はい、いってらっしゃい、お気をつけて」とあしらい口調で言う秀子。庭に出るだけと分かっていながら見送る姿に、積み重ねてきた夫婦の呼吸を感じる。
それにしても、守一が30年間居続けている庭の楽しいこと!一見草だらけの庭に見えるが、守一の目線でずっとクローズアップすると、ミツバチやカナブンが飛び回っている。尺取虫がせっせと木登りする姿をスクリーンで観ることができるなんて。驚いている間もなく、白いモシャモシャの中からアリが出てきてさらにビックリ。行進していたアリが、守一の立派な髭に紛れ込んでいたのだ。様々な生態系がこの庭で営みを送っている。守一の目線で見れば、ここは広い世界で、そして毎日見続けても全く飽きることはない。
最晩年の守一をある一日の物語で表現し、そこに様々な来訪者やハプニングを交えて、守一の人生哲学を浮かび上がらせる仕掛けが、ピタリとハマっている。若手からベテランまで個性豊かなキャストたちが守一夫妻と関わることで、様々な気付きを得る姿も微笑ましい。そして、賑やかな一日の終わりに夫婦二人きりになった時、交わされる会話の中に、子どもを失くした過去や、生へのこだわりが滲むのだ。ドリフターズやジュリー(沢田研二)が大人気だった昭和49年ネタで、大胆な仕掛けも交えて笑わせてくれる沖田マジックも健在。劇中に登場する守一の絵画と共に、彼が愛した庭や、心豊かな日常を感じてほしい。
(江口由美)
(C) 2017「モリのいる場所」製作委員会