原題 | ISLE OF DOGS |
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制作年・国 | 2018年 アメリカ |
上映時間 | 1時間41分 |
監督 | ウェス・アンダーソン(『グランド・ブダペスト・ホテル』) |
出演 | (声)ブライアン・クランストン、ランキン・こうゆう、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン、グレタ・ガーウィグ、ヨーコ・オノ、ティルダ・スウィントン、野田洋次郎、渡辺謙、夏木マリ、村上虹郎他 |
公開日、上映劇場 | 2018年5月25日(金)~全国ロードショー |
受賞歴 | 第68回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞) |
~ウェス・アンダーソンが描く緻密な近未来日本に驚愕!
豪華声優にも注目のサバイバルアドベンチャー~
ここのところ日本が大好きという海外のフィルムメーカーが日本のポップアートや文化、映画を作品に取り入れるケースが数多く登場している。スティーブン・スピルバーグ監督の『レディ・プレイヤー1』では数多くの日本発のキャラクターが登場しているし、アキ・カウリスマキ監督の『希望のかなた』では、笑いを誘う寿司屋のシーンが挿入されている。だが、ヴェス・アンダーソン監督は好きをカタチにするときのスケールが違う。舞台を近未来の日本に設定した本作は、アンダーソン監督の頭の中の日本が全編に渡って映画で表現され、設定や生活風景も、昭和の日本をそこかしこに想起させる。とても手間暇のかかるストップモーションアニメで、看板や瓶のラベル一つに至るまで細かく日本語で描写し、もはや芸術品の域だ。そして、そこで繰り広げられる物語は、裏にある政治的目論見が透けて見え、現実社会の問題と重なる。超豪華な声優陣の名演にも注目したい、犬と人間のサバイバルアドベンチャーだ。
今から20年後の日本、ドッグ病が大流行するメガ崎市では、小林市長が人間への感染を防ぐために全ての犬を“犬ヶ島”に追放する緊急条例を成立させる。その第一号として市長の養子、アタリの警護犬、スポッツが連れて行かれてしまう。12歳のアタリはたった一人で小型飛行機を操縦し、親友のスポッツを探しに犬ヶ島へたどり着く。既に絶望と空腹を抱えた犬だらけと化した島で、アタリは野良犬のチーフと元ペットの4匹と出会い、一緒にスポッツ探しを始めるのだったが…。
ゴミの山のような殺伐とした犬ヶ島で生き抜いている元来一匹狼のチーフと、ペット時代を懐かしむ4匹たち。勇気あるアタリと出会い、スポッツを探す冒険物語は、艶やかな毛並みのナツメグに恋したチーフも本格参入し、5匹で犬ヶ島を駆け巡る。境遇が違う犬たちは、声を務めた俳優たちの個性がプラスされ、会話からそれぞれの生き方が滲んで味わい深い。5匹をアタリの誘拐犯扱いに仕立て上げた小林市長が送り込んだロボット犬との闘いなど次々と降りかかる試練にアタリとチーフたちは結束して立ち向かう。
人間の世界では、黒澤映画の三船敏郎をイメージしたという強面の小林市長が、反対派を毒殺してまで、実行に移す様子が重々しく描かれる。ユニークなのは学生から市長の政策に異議を唱える存在が現れること。ドッグ病流行の裏にある陰謀を調査する新聞部の交換留学生トレイシーの声にはグレタ・ガーウィグ(『フランシス・ハ』)が扮し、マシンガントークで見せ場を作っている。更に、ドッグ病収束の鍵を握る科学者助手役にはヨーコ・オノが登場!権力者にNOを突きつけるのだ。
浮世絵からドラゴンズまで、日本の様々なテイストを盛り込んでも、調和がとれているのは、アンダーソン監督のセンスゆえだろう。目の表情と動きで愛嬌を添えるクレイアニメのデザインも洗練され、かつリアルだ。和太鼓のドンドコという音色が、討ち入りのような和の闘いの雰囲気を演出し、観ている方も気分が高揚していく。小林市長の気持ちの変化も含め、日本をしっかり研究したアンダーソン監督の渾身作、愛犬家ならずとも、犬たちの頑張りに心揺さぶられるだろう。
(江口由美)
(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation