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『蝶の眠り』

 
       

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作品データ
制作年・国 2017年 日本=韓国 
上映時間 1時間52分
監督 脚本・原案:チョン・ジェウン
出演 中山美穂、キム・ジェウク、石橋杏奈、勝村政信、菅田俊、眞島秀和、澁谷麻美、永瀬正敏他
公開日、上映劇場 2018年5月12日(土)~角川シネマ新宿、梅田ブルク7、シネマート心斎橋、109シネマズHAT神戸、MOVIX京都他全国ロードショー
 

~記憶を失くしても残るものはある。究極のラブストーリーに射す光とは~

 
日本で作られるラブストーリーがティーン向けに偏っている今、アラフィフ女性をヒロインにした作品が作られたことはとても喜ばしい。しかも、長編デビュー作『子猫をお願い』(01)以来の日本公開作品となるチョン・ジェウン監督が、原案から手掛けた作品だ。アジア圏のフィルムメーカーは、岩井俊二監督の作品のファンが非常に多いが、ジェウン監督もその一人。岩井監督の代表作『Love Letter』(95)で主演を務めた中山美穂に、自ら日本語で綴った手紙をシナリオと送り、主演依頼をしたという。成功した50代の美人作家が、アルツハイマー病と闘いながら、自らの生の記憶をどこに、誰に焼き付けていくのか。年の差や国籍の違い、そして余命の違いを乗り越える美しいラブストーリーのヒロインを中山に託したジェウン監督。その熱意は、作品を見れば一目瞭然だ。
 
 
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人気作家の涼子(中山美穂)は、小説家の夫と別れ、一人で本に囲まれた日々を過ごしている。ある日アルツハイマー病であることが判明した涼子は、それでも新たなチャレンジをするべく、大学で講師を務めはじめる。ある日居酒屋で大事な万年筆を落としたことをきっかけに、バイトで働いている韓国人留学生チャネ(キム・ジェウク)との交流が始まる。涼子は最後の小説を執筆するため、チャネにアシスタントを頼み、二人の共同作業が始まるのだったが…。
 
 
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作家という設定だけに、執筆する場所は非常に重要な要素だが、建築のドキュメンタリーを手掛けた経験のあるジェウン監督は、建築家阿部勤氏の自宅、「中央のある家」を涼子の家に選んでいる。涼子が口述した文章を、チャネが書き起こし、その文章を涼子がチェックするという一連の作業は、街路樹の陰から光が射し込む2階の部屋。そして家の核となる中央部分は、この物語の核ともなる「本」がズラリと並ぶ空間だ。作家名順や、作品名順ではなく、どこに何があるか分からない、ワクワクするような陳列にという涼子のリクエストに応え、チャネは背表紙の色でグラデーションの波のように視覚的に美しい陳列を提案する。本好きな二人が、年齢や文化の違いを越えて確たる愛を深めていくエピソードは、繊細かつ美しい。
 
 
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アイドルから年を重ね、大人の女性として凛とした輝きを放つ中山美穂の美しさは、涼子という役を通して十分に感じられる。さらに、日韓合作の本作で唯一の韓国人キャストとなったキム・ジェウク(『アンティーク ~西洋骨董洋菓子店~』)の涼やかな佇まいと、柔らかい日本語が、非常に魅力的だ。永瀬正敏も、温かくかつ江戸っ子風にチャネを見守るバイトの店長役を好演している。小説を書くという行為が、自分をさらけ出すものだとすれば、限られた時間の中、自分の全てを見せた涼子は、チャネに、そしてこの街で本を愛する人たちに遺せるものが確かにあった。そして、人生最後の恋と分かっていた涼子の気持ちが、後から後から沁みてくるのだ。
(江口由美)
 
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公式サイト⇒http://chono-nemuri.com/
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