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『シューマンズ バー ブック』

 
       

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作品データ
原題 Schumanns Bargesprache 
制作年・国 2017年 ドイツ 
上映時間 1時間38分
監督 マリーケ・シュレイダー
出演 チャールズ・シューマン、シュテファン・ウェバー、デイル・デグロフ、ジュリー・ライナー、コリン・フィールド
公開日、上映劇場 2018年4月21日(土)~シアター・イメージフォーラム、5月5日(土)~テアトル梅田、5月12日(土)~京都シネマ、順次~シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開


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~伝説のバーマンが(いざな)う魅惑的なバーの世界~

 

ぼくはお酒が大好きで、バーで嗜むのも大好きです。元々は居酒屋一辺倒でしたが、かれこれ30年ほど前、お酒の飲めない親戚から回ってきた中元の品のスコッチ・ウイスキーと出会い、人生が大きく変わりました。そのウイスキーとは、シングルモルトのグレンフィディック(Glenfiddich)。ボトルがグリーンの三角柱。今では非常にポピュラーな銘柄ですが、当時、シングルモルト・ウイスキー自体が珍しく、それを一口含むや、ビビッと体に電流が走りました。まさに神の啓示でした。「う、う、うまい~!!」。

 
この劇的な体験を機に美味なお酒を味わいたくて居酒屋からバーへとシフトしました。それは「酒飲み」から「酒好き」に変身した瞬間でもあったのです。初めのうちバーの敷居が高く思えて、なかなかドアを開ける勇気がありませんでした。しかし思い切って一歩、店に入ると、そこは心の安らぎを得られるスペースだとわかってきました。そのうちお酒に関するいろんな知識・情報を得て、足を運ぶバーの店舗もどんどん増え、気がつくと今に至ったという次第です(笑)。

 
SBB-500-1.jpgこんなぼくが本作『シューマンズ バー ブック』を観て、心がときめかないはずがありません。南ドイツ・ミュンヘンを拠点にする伝説のバーマン、チャールズ・シューマンさんが世界各地のバーを巡るドキュメンタリー映画です。

 
「バーマン」と表記しましたが、日本では「バーテンダー」の方が一般的ですね。「バーマン」はヨーロッパ、とりわけイギリスでの呼称で、女性の場合、「バーメイド」と言います。「バーテンダー」はアメリカでの呼び方です。これなら男女関係ありません。しばしば「バーテン」と短く言う人がいてはりますが、何となく蔑視しているような印象を受けるので、使わない方がいいと思います。シューマンさんはドイツ人なので、ここでは「バーマン」を採用します。というか、ぼくは普段でもこちらの言い方をしています。

 
SBB-500-5.jpgどうしてシューマンさんに「伝説の」という修飾語が付くかというと、イラストを添えた500種類以上のカクテルのレシピ本を作成したからです。それは本作のタイトルと同じ『シューマンズ・バー・ブック』という名著です。1984年に出版され、1991年に聖書のような、一見、地味な装丁にした改訂版が出されました。ハードカバーの荘厳な赤い本。バーマンでこの本を知らない人はモグリです(笑)。シューマンさんは76歳にしてなお健啖。めちゃカッコええお人です。

 
そんなシューマンさんが私たちを案内してくれるのが、ミュンヘンとベルリン(独)、ニューヨーク(米)、パリ(仏)、ハバナ(キューバ)、東京、ウィーン(オーストリア)にある19店舗です。ニューヨークの超人気店エンプロイーズ・オンリー、文豪ヘミングウェイがフローズン・ダイキリ(ラム酒ベースのショートカクテル)を愛飲したハバナのエル・フロリディータ、独特なシェイキング(シェイクする方法)を生み出した上田和男さんの銀座テンダーなど有名店が多いですね。ただ、ロンドンのサヴォイホテルのメインバー、イタリア・ベニスのハリーズ・バーなど絶対に外せない店が入っていませんでした。なんでやろ? 映画で紹介されるバーはシューマンさんのお気に入りの店かもしれませんね。

 
SBB-500-2.jpgバーにはいろんな形態があります。本格的なオーセンティック・バーや格式あるホテルのバーからカジュアルなバーまで幅広く、数年前にはガールズ・バーも出現しました。さらにウイスキーをメインにする店、ジンやウォッカなどハードリカーに力を注ぐ店、リキュールにこだわる店……。ラム、テキーラ、シェリー酒の専門店もありますね。千差万別です。この映画ではカクテルに主眼が置かれています。

 
カクテルはバーマンの腕の振りどころです。だからいろんなカクテルコンペが開催され、そこでいい成績を残すと、そのバーマンの評価が高まります。カクテルの王者といわれるマティーニをオーダーすると、どんなベテランのバーマンでも緊張した表情になります。そして同じカクテルでも店によってレシピや作り方が異なるところが面白い。

 
SBB-500-4.jpg映画の中でシューマンさんは対面した各地のバーマンに限りなく敬意を表し、一杯のカクテルへのこだわりに耳を傾けます。そこではお客さんの目線です。カウンター越しに語り合う姿から、バー文化、カクテル文化の真髄が浮かび上がってきます。どのバーマンも独特な魅力を放っています。概して外国のバーマンはざっくばらんで、作り方もアバウトですが、日本のバーマンはいたって真面目。国民性が如実に表れています。ぼくとしてはもう少し「遊び心」を持ってほしいと思っているのですが……。 


ぼくがバーに通い始めたころはとにもかくにもお酒が目当てでした。つまりバックバーに並ぶボトルの種類や本数、レアな逸品とか、そういうハードな面ばかり見ていました。ところが次第にバーでしか味わえない空気に浸りたいと思うようになりました。今では、どんなに多くのボトルを持っているとか、いかに美味なカクテルを作ってくれるとか、豪勢なインテリアを誇っているとか、そんなことは二の次で、居心地の良い寛げるバーにしか行きません。もちろん常識的に考えて値段の高いお店は敬遠しています(笑)。


SBB-500-3.jpgバーを演劇に例えるとわかりやすいですよ。店の空間が舞台、バーマンが演出家、私たちが観客。ではお酒は? そう、俳優です。時には主演を張ったり、脇役になったり。またある時にはバーマンが役者に変身し、お客さんとの会話が主役になることもあり、さらに客同士のやり取りにスポットライトが当たることもあります。たとえひと時とはいえ、同じ時空を有する〈同志〉との語らいがええ塩梅に〈バー劇場〉を盛り上げます。

 
劇場であるがゆえ、ゆめゆめ閉鎖的な場ではありません。そこに入ると、楽しまないと損です! そのためには大人のルールに則り、やはり「遊び心」が欠かせません。寛ぐためには、気持ちが柔軟になっていないと。何はともあれ、この映画を観たあと、無性にカクテルが欲しくなりました!!

 
(武部 好伸:エッセイスト)

公式サイト⇒ http://crest-inter.co.jp/schumanns/

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