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『焼肉ドラゴン』

 
       

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作品データ
制作年・国 2018年 日本
上映時間 2時間06分
監督 原作・監督・脚本:鄭義信(チョン ウィシン)
出演 真木よう子 井上真央 大泉洋 桜庭ななみ 大谷亮平 ハン・ドンギュ イム・ヒチョル 大江晋平 宇野祥平 根岸季衣
公開日、上映劇場 2018年6月22日(金)~TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)、MOVIX京都、神戸国際松竹 他全国ロードショー

 

ある家族の肖像を描いた伝説の舞台を、
生みの親で脚本家でもある鄭義信(チョン ウィシン)が映画化。

 

昭和44年。高度経済成長期真っ只中の日本。大阪のとある川べりに、取り残されたバラック街。子どものため家族を養うために身を粉にして働いた片腕の父がいる。第二次世界大戦を生き抜くも、四・三事件で故郷・済州島を追われた在日韓国人の龍吉(キム・サンホ)だ。「昨日は不運だとしても、明日は良い日になる」と信じてがむしゃらに働いた。そんな父の姿は、ほかの誰でもない私がよく知る父の姿と重なる…いや、多分。誰だって、「私の父」だと思うのではないか。


yakinikudragon-500-6.jpg口にできない苦労は、自分の代で終わりにしたい。子どもには、幸せな人生を送ってほしい。その権利は、もし権利が必要なら、十分にあるはずだ。一世たちはそうやって、自己犠牲を払ってまで次の世代に希望を残そうと奮闘した。頼る者はないよそ者だから、帰る国のない半分日本人だからと、川のあちらもこちら側でも、差別される身なら、いっそ住める家のある場所で、生きていけばいい。


yakinikudragon-500-2.jpg龍吉の営む焼肉屋に入り浸っている哲男(大泉洋)は、脚の不自由な長女・静花(真木よう子)に好意を寄せているが、静花は素直に彼の気持ちに応えられない。哲男には、彼女の足を悪くさせた負い目があり、静花には引け目があるからだ。そんな哲男は、しっかり者で美人の姉・静花にコンプレックスを抱いている次女の梨花(井上真央)に押し切られ結婚することになる。根が優しいというか、面倒くさい純情男の哲男には、哀しい愛を2つ足しても、ひとりも幸せになれないことがわからなかった。


yakinikudragon-500-1.jpgそんな2人の姉と違って、我が道を行く三女・美花(桜庭ななみ)は、勤めているクラブのママの年下の亭主と交際中だ。再婚同士の父母が設けた跡取り息子、コーラとマンガが好きな中学生の時生は、働きづめの両親に余計な心配をさせまいと耐えているが、学校でのいじめはひどくなる一方だった。一家は相変わらず立ち退き要請に悩まされていたが…。


yakinikudragon-500-3.jpg学があるけれど恋愛下手の哲男を、愛すべきヘタレ男子に演じて切ない笑いを誘う大泉洋。寡黙な父に似て不平不満を決して口にしない静花。対照的に、親の望むような良い娘になれない梨花。真木よう子と井上真央の姉妹関係に、(次女である私は、なんとも胸が苦しくなってしまったのだが)引けを取らない存在感を見せていたのが、母・英順(イ・ジョンウン)の連れ子・美花役の桜庭ななみ。とはいえ、父母に扮したキム・サンホとイ・ジョンウンの妙演あってこそ、伝説の舞台は格別の映画となった。


yakinikudragon-500-4.jpg万博が開催された、翌春。桜舞う空の下で、一家はそれぞれ新しい門出を迎える。娘たちとの別れを惜しむ父母だが、あふれる思いは言葉にならず、抱擁を交わすしかできない。このシークエンスにはほとんどセリフが無いのだが、映像ならではの表現力で情感の線に触れる。たくましく生きた家族の愛と涙、焼肉の煙の染みついた家はもうすぐ取り壊され、消えてなくなるが、彼らの過ごした日々のすべては誰にも奪うことなどできない。


(柳 博子:映画ライター)

yakinikudragon-500-5.jpg公式サイト⇒ http://yakinikudragon.com/

(C)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会