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『ザ・スクエア 思いやりの聖域』

 
       

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作品データ
原題 THE SQUARE  
制作年・国 2017年 スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク合作
上映時間 2時間31分
監督 監督・脚本:リューベン・オストルンド『フレンチアルプスで起きたこと』  製作:エリック・ヘルメンドルフ『フレンチアルプスで起きたこと』、フィリップ・ボベール『散歩する惑星』  撮影:フレドリック・ウェンツェル『フレンチアルプスで起きたこと』
出演 クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー他
公開日、上映劇場 2018年4月28日(土)~シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル神戸、京都シネマ 他全国順次公開
受賞歴 第70回カンヌ国際映画祭最高賞パルムドール受賞(2017年)


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~理想と現実の大きなギャップにもがき苦しむ現代人~

 

白いラインで囲われた4メートル四方の空間。これが映画のタイトルにもなっている「ザ・スクエア」です。そこにはこんな説明がなされています。「信頼と思いやりの聖域です。この中では誰もが平等の権利と義務を持ちます」。理想的なことが掲げられていますが、一体、何やねんといった感じですね。これ、スウェーデンにある現代美術館の展示です。考案者はこの美術館のチーフ・キュレーター、クリスティアン(クレス・バング)。


TheSquare-500-3.jpgこの人物はバツイチで、2人の可愛い娘を持つ中年男。見るからにインテリのエリート、優等生丸出しです。責任感と行動力があり、なかなかのイケメンとあって、女性にも持てそう。まぁ、映画の主人公としては面白みに欠けますが……。ところが出勤途中にスマホと財布を盗まれたことから、この男の実像が次々に暴かれていきます。それもシニカルな眼差しで!


スマホと財布の盗難シーンが結構、刺激的でした。「助けて! 助けて! 男に殺される」と叫びながら若い女性が駆け寄ってきます。周りにいる大勢の通勤者はほとんど見て見ぬふり。無関心、無反応。みな急いでおり、他人のトラブルに巻き込まれたくないのです。自己中心的でクールな現代社会の断面を切り取った典型的な光景ですね。


TheSquare-500-4.jpgクリスティアンもその1人でしたが、助けざるを得なくなり、もう1人の男性と彼女を守ろうとします。久しぶりに善い行いをしたのか、幸せな気分に包まれます。しかしそれも束の間、盗難に遭っていたことがわかります。きっと計画的な犯罪なのでしょう。ゾッとしました。この場面から一気に映画に引きずり込まれていきます。


犯人の行方を探るため、スマホのGPS機能が使われ、アパートを特定します。ほんま、便利ですね。しかしどの部屋なのかがわからない。そこで、「スマホと財布を返してくれないと、えらい目に遭わせるぞ」という脅迫文めいたメッセージを全戸に配布するのです。クリスティアンなりに正義に基づいたベターな方法と思ったのでしょうが、それがどういう大きな影響を与えるかが予見できなかった。


そのアパートというのが低所得者向けで、居住エリアの環境も決してよくありません。美術館では平等を謳っていながら、ここでは差別意識が垣間見れ、上目線であるのが一目瞭然。人間って、所詮、偽善的なところがあるんですねぇ。この行動が発端となり、あとで予期せぬ出来事が起こり、自業自得の結末へと転がり込んでいきます。さらにYOU TUBEに流れた「ザ・スクエア」内での驚愕の映像が国内で物議をかもし出し、とんでもない事態を招くことになります。えらいこっちゃ、えらいこっちゃのオンパレード!


TheSquare-500-2.jpgスウェーデン映画界の寵児、リューベン・オストルンド監督は通常では考えられないベクトルで映画を撮ります。前作『フレンチアルプスで起きたこと』(2015年)では、スキーのリゾート地にやって来た家族が、目の前で起きた雪崩の発生時に取った夫の行動が引き金となり、理想の家族が崩壊していくプロセスを、これまたシニカルなタッチで描いていました。どんなふうに展開するのか全くわかりません。些細な言動から全体像がほころびていく様子をつぶさに、かつしつこく描いていくのがこの監督の得意芸。本作もその路線を踏襲しています。


遠慮なく不協和音を挿入するのもお好きなようです。美術館での会議中に泣き止まない赤ちゃんをあやすスタッフを登場させたり、スピーチの最中、携帯にかかってきた電話の受信音を入れたり、会話中に雑音を盛り込んだり……。くどすぎて、ほんまに耳障り。わざと不快にさせているとしか思えません。ここまできたら確信犯です。観る側の寛容度を試しているのでしょうかね。対談形式のトークショーで、神経疾患を抱える男に「クソ女」「おっぱい」など下品で卑猥な言葉を連発させる辺り、ちょっと病的に思えますが……。


TheSquare-500-1.jpgその最たるシーンがこれ。美術館で催された招待客の宴席で、お猿さんのような仕種をする上半身裸の「モンキーマン」が奇声を上げて乱入してくるところ。奇抜な演出のつもりが、「モンキーマン」のテンションがどんどん高まり、収拾がつかなくなっていきます。誰もが彼と目を合わせないように下を向いています。恐怖心に縛り付けられているかのよう。やがて冷静を装っていた招待客が本性を現す段になり、エリート階級の偽善性が見事に暴かれます。何とも凄まじい演出でした。最初は笑いながら観ていたぼくも最後には凍り付いていました。


自分がその場にいたらどうするのか? この映画の〈ややこしい場面〉はどれもそう問いかけてきます。同時に社会・人間不信、利己心、差別意識、偏見について、引いては冒頭の「ザ・スクエア」の設置目的は何だったのかと考えさせられるのです。参った、参った。「言うてることとやってることがちゃいますがな」。これに尽きますね。映画の終盤では、ジェントルマンであるはずのクリスティアンがズタズタにされ、実に弱い人間になり果てていました。


非常に毒気の強い風刺悲喜劇。カンヌ国際映画祭はこの手の作品がお気に入りとみえ、本作に最高賞パルムドール賞を与えました。ひと筋縄ではいかない独特な演出で社会と人間の本質に迫っていくオストルンド監督はこれから目が離せない映画人の1人です。本作の中で、「人を信用する」と「人を信用しない」の2つの入り口が映っていましたが、規格外のモノサシで問題提起を続けるこの監督をぼくは信用します(笑)。


(武部 好伸:エッセイスト)

公式サイト⇒ http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/

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