原題 | Suburbicon |
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制作年・国 | 2017年 アメリカ |
上映時間 | 1時間44分 |
監督 | 監督:ジョージ・クルーニー 脚本: ジョエル&イーサン・コーエン ジョージ・クルーニー グラント・ヘスロヴ |
出演 | マット・デイモン ジュリアン・ムーア オスカー・アイザック |
公開日、上映劇場 | 2018年5月4日(金)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、T・ジョイ京都、神戸国際松竹、TOHOシネマズ西宮OS ほか全国ロードショー |
美しい夢にも、陽の光のとどかない闇がある。
アメリカの今を映したシニカルなサスペンス・ドラマ。
都会に出てきた田舎娘が、ひょんなことで映画スターに…信じれば夢はかなう“神話”を描き続ける夢の工場ハリウッドに、昨年吹き荒れたセクハラ問題は、神話が孕む黒い闇を白日にさらした。映画界を震撼させたこの事件、「Me Too」運動も相俟って世界的な広がりを見せたものの、アカデミー賞授賞式を境に終止符が打たれたのか、続報は伝わってこない。
さて、そんななか試写が行われた「サバービコン 仮面を被った街」は、アメリカがもっとも輝いていたとされる(赤狩り、水爆など、歴史的には、決してそうは言えないが)50年代に、実際に起きた人種差別暴動をモチーフにしたコーエン兄弟の脚本と、監督ジョージ・クルーニーの着想を融合したシニカルな人間ドラマだ。もちろん作品名は、映画の主旨をイメージ喚起させるものなのだが、なんだかとても皮肉めいている気がしてならない。
1947年に誕生し、その後10年のうちに白人6万人が暮すニュータウンとなった郊外型住宅地サバービコン。絵に描いたように美しいが、画一的な家並みの“作り物”感はちょっと異様な光景ですらある。この街に、ある日、1組の黒人一家が引っ越してきた。とたんに拒絶反応を示す住民たちは、フェンスを取り付けたり(かの大統領のようですね)あからさまな嫌がらせ行為をエスカレートさせていく。その最中、隣家ガードナー宅で強盗殺人が発生する。幼い少年ニッキーは、車椅子の母ローズの命を奪った容疑者の面通しで、父と伯母マーガレットが、犯人を見過ごしたことに疑問を抱くが…。
欲望に歯止めのきかなくなっていく平凡なミドルクラス男ガードナーには、マット・デイモン。姉の死後、容姿だけでなく幸福も似せようと振る舞う妹…ジュリアン・ムーアの演じた双子姉妹は、さながら解離性同一性障害のキャラクターに思えてゾッとする場面も。終盤近くに登場する保険調査員に扮したオスカー・アイザックは、なかなかの食わせ者ぶりだった。
見た目通りとは限らないのに、往々にして人は、見たいものしか見ない。恥ずかしながら、かく言う私もだ。それが誤解や偏見を生んだり、最悪の場合、だれか(あるいは自身)を傷つけることもあるということを過去から学んだはずなのに、いまだ戦争は止まない。クルーニー監督は、こういう人間のやっかいな一面をブラックなユーモアでくるみ、心の奥底で恐怖させるのがうまいコーエン兄弟の世界観に、社会派の視点を加味していて興味深い。
(柳 博子:映画ライター)
公式サイト⇒ http://suburbicon.jp/
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