原題 | Testrol es lelekrol 英題 On Body and Soul |
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制作年・国 | 2017年 ハンガリー |
上映時間 | 1時間56分 |
監督 | 監督・脚本:イルディコー・エニェディ |
出演 | アレクサンドラ・ボルベーイ、ゲーザ・モルチャーニ、レーカ・テンキ、エルヴィン・ナジ、ゾルターン・シュナイダー、イタラ・ベーケーシュ、タマーシュ・ヨルダーン他 |
公開日、上映劇場 | 2018年4月14日(土)~新宿シネマカリテ、池袋シネマ・ロサ、5月5日(土)~シネ・リーブル梅田、近日~京都シネマ、元町映画館、そのほか全国順次ロードショー |
受賞歴 | 2017年・第67回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞をはじめ4部門に輝いた。2018年アカデミー賞外国語映画賞ノミネート |
同じ夢を共有する男女の、近づいては離れるロマンスの行く末は?
ミステリアスな雰囲気があるのに、ぎこちないオトナ二人が醸し出すおかしさ。ちょいと風変りな恋愛映画だ。日本での公開本数が非常に少ないハンガリー映画だが、これは強烈な印象を反芻させるに違いない。
ハンガリーのブタペスト郊外にある食肉処理場。代理の品質検査官として、若いマーリア(アレクサンドラ・ボルベーイ)が赴任した。無表情で口数少なく、垢ぬけない服装、生真面目すぎて周囲と打ち解けない彼女をじっと見つめていたのは、片手が不自由な年配の上司エンドレ(ゲーザ・モルチャーニ)だった。二人の会話は気まずさと不器用さのトーンをまとうばかりだったが、ある事件がきっかけで、意外な事実がわかる。なんと、エンドレとマーリアは、お互いに鹿として行動を共にするという同じ夢を見ていたのだ…。
映画の冒頭、目を洗うような清らかな風景の中にある二頭の鹿が出てくるのだが、このような映像が何度も挟み込まれ、だんだんと鹿たちの目つきや行動から目が離せなくなっていく。そして、それぞれに一人暮らしのエンドレとマーリアの日常、そこにある孤独と孤独の影が細やかに綴られ、それによって、彼と彼女がどういう感性を持っているのか、何にこだわっているのかなどがきちんと伝わってくる。“東欧の鬼才”と呼ばれて高い評価を得たが、『Simon, the Magician』(1999年/日本未公開)以降、長編を撮らずにいた監督イルディコー・エニェディの巧さだと思う。
監督は、男女二人の日常と鹿の夢を「並行する現実世界として描きたかった」というコメントを発しているのだが、その表現の立脚点を見つめると、私たちの生は誰か(創造主?)の夢だというあの超次元の考え方をつい思い出してしまう。ちなみに、ハンガリーでは、鹿は神獣と見なされているのだという。また、明らかにコミュニケーション障がいを持つマーリアが自分の恋に気づく初々しさと一途な滑稽さ、抑制を自己に命じていたエンドレが本能に従った時からまとい始める凡庸さなど、時間の経過と共に、きらきらとした恋のときめきを奪ってゆくものの酷さについて、皮肉な結末は語っているようにも思える。
本作は2017年ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞に輝いた。肌が透き通るようなアレクサンドラ・ボルベーイが一躍脚光を浴び、もともと俳優でなく著名出版社で編集責任者をしていたゲーザ・モルチャーニの渋味のある演技も注目された、ファンタジーの色合い濃い異色作である。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://www.senlis.co.jp/kokoroto-karadato/
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