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『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』 

 
       

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作品データ
原題 Darkest Hour
制作年・国 2017年 イギリス
上映時間 2時間05分
監督 ジョー・ライト
出演 ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーヴン・ディレイン、ロナルド・ピックアップ、ベン・メンデルソーン
公開日、上映劇場 2018年3月30日(金)~大阪ステーションシティシネマ、他全国ロードショー
受賞歴 第90回アカデミー賞(2018)主演男優賞(ゲイリー・オールドマン)、メイクアップ&ヘアスタイリング賞(辻一弘)

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~ネバー・ギブアップの気概で勝利に導いた名宰相~

 

ウィンストン・チャーチル(1874~1965年)――。今の世の中、この人のように圧倒的な存在感を放つ政治家がいるでしょうか。国内外問わず、みな小粒になっているような気がします。世界に冠たるアメリカの大統領ですら、大柄ではあるけれど、言うこと為すこと幼稚でブレまくり、とても大国の器にふさわしい人物とは思えません。やはりあの激動の時代がチャーチルのような政治家を生み出したのでしょうかね。


WC-500-1.jpg英国を代表する演技派俳優ゲイリー・オールドマンが巨漢のチャーチルに扮しているのが最大の話題です。どちらかと言えば、スリムな俳優がよくぞここまで化けることができました。ほんま、びっくりポン!! おそらくお腹にドテラをドーンと巻いてはるんでしょうね。しかも何を喋っているのか分からない話し方までそっくり。ほんま、参りましたわ。案の定、今年度のアカデミー賞で主演男優賞をゲットしました!!


この映画、ぼくはてっきりチャーチルの伝記映画とばかり思っていました。ところが違った。1939年9月1日に第2次世界大戦が勃発。とはいえ、ドイツ軍がポーランドに進駐しただけでほとんど動きを見せない「静かな戦争」が続きました。ところが翌年(1940年)の5月にいきなり電撃作戦を展開し、北欧をあっという間に占領し、ベネルクス三国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)に牙をむき始めました。今や同盟国フランスの命運も危うし……。


WC-500-2.jpgまさにそんな状況下に英国の首相に就任したのがチャーチルでした。政権を握っていた保守党の党首で、首相のネヴィル・チェンバレン(1869~1940年)が指導力の弱さから信頼を失墜し、次期首相が模索されていました。海軍大臣のチャーチルはこれまでいろんな失策が続き、あまりにも個性が強いことから保守党内でも嫌われていたのですが、挙国一致内閣を実現させるためには、野党・労働党の顔を伺わねばならず、やむに已まれず66歳のロートル、チャーチルに白羽の矢が立ちました。


映画は首相就任の1日前(5月9日)から27日間にわたりチャーチルに肉迫していきます。ドイツ軍が徐々に西へと進軍し、フランスが侵略されていく中で大英帝国を率いるこの指導者にターゲットを絞った人間ドラマです。だから戦場の場面はほんの少しで、アクションシーンは皆無。壮大な戦争スペクタクルを期待していると、完全に裏切られます。でも、不世出な政治家の裏表を余すことなくあぶり出していたのがぼくにはすこぶる面白かったです。


WC-500-3.jpg首相の座に就いた早々、決断を下さねばならなかったのが、北フランスのダンケルクから英仏連合軍将兵約30万人を撤退させることでした。クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』(2017年)はその作戦を再現したスペクタクル、イギリス映画『人生はシネマティック』(2016年)はダンケルクでの美談を映画化しようとした当時の活動屋と脚本家の物語、そして本作は政治的・戦略的に英断を下した政治家のドラマ。これら3作を観れば、史上最大の救出作戦といわれるダンケルクの全貌がわかると思います。


で、そのチャーチル。実にけったいなおっさんです。毒舌家で、頑固。それに戦争が大好きです。「戦争屋」とも言われていました。とにかく勝つことに執念を燃やす、そんなおじさんです。だから一筋縄ではいかない独裁者ヒトラーを相手にするには、弱腰なリーダーでは絶対に務まらず、チャーチルのような勝気満々の好戦的な指導者がふさわしかったのです。


WC-500-4.jpgこの人、大英帝国の威光を何よりも尊重していました。なので、植民地政策を100%賛美する帝国主義者でもありました。戦後(大戦中から?)、世界は米ソ超大国の時代になっていたのに、衰退著しい大英帝国の実情を無視し、なおも植民地維持に執念を燃やして米ソに食い下がっていました。そんな時代錯誤的なところにチャーチルの哀しみが感じられます。それに大の反共主義者。実際、ヒトラーよりもソ連のスターリンを嫌っており、スターリンの方も旧世界に生きるチャーチルにうんざりしていました。犬猿の仲。


映画で描かれた時期のあと、孤軍奮闘していた英国にもはや戦う余力がなくなり、チャーチルは中立を保っていたアメリカの参戦をひたすら促します。日本軍が真珠湾を奇襲したとき、一番喜んだのは他でもないチャーチルでした。これでアメリカが参戦してくれると思ったから。そのことは回顧録『第二次世界大戦』に記されています。


WC-500-5.jpgチャーチルといえば、キューバ産の葉巻とお酒。根っからの左党で、朝からウイスキーのソーダ割り(ハイボール)を飲んではりましたね。あれ、ジョニー・ウォーカー黒ラベル(ジョニ黒)ですよ。他にもシャンペン、シェリー、ブランデーと何でもござれ。映画では出ていなかったけれど、実はジンがお気に入り。カクテルの「チャーチル・マティーニ」とは、ベルモットを眺めながら、ドライ・ジンを口にするという代物ですから~(笑)。それに「チャーチル・ジン」という銘柄もあります。


何はともあれ、映画の中でいろんな顔を見せてくれるチャーチルを楽しみましょう。かなり実像に近いと思います。こんな仰々しい人物が国民から必要とされるのは、その時代が非常にヤバくなった時です。英国では、まさにバッキンガム宮殿にハーケンクロイツ(ナチスのカギ十字)の旗が翻るのを国民が許せなかったからこそ、チャーチルに国体を任せたのです。そういう時代がもう二度と、来ないことを願って止みません。


武部 好伸(エッセイスト)

公式サイト⇒ http:// www.churchill-movie.jp/

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