原題 | THE SHAPE OF WATER |
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制作年・国 | 2017年 アメリカ |
上映時間 | 2時間04分 |
監督 | 原案・脚本・監督・製作:ギレルモ・デル・トロ(『クリムゾン・ピーク』『ホビット』シリーズ、『パンズ・ラビリンス』) |
出演 | サリー・ホーキンス(『』『』『』)、マイケル・シャノン(『ノクターナル・アニマルズ』『テイク・シェルター』)、リチャード・ジェンキンス(『ダンケルク』『扉をたたく人』)、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スツールバーグ、オクタヴィア・スペンサー(『ドリーム』『ヘルプ 心がつなぐストーリー』) |
公開日、上映劇場 | 2018年3月1日(木)~全国ロードショー |
過去はいらない。孤独な瞳に映した、愛の未来。
恐ろしくも悲しいデル・トロ版「美女と野獣」。
黄金期のミュージカル映画を上映するすっかりさびれた映画館。その階上にあるアパートメントで、ルーティンな毎日を送るイライザは、耳は聞こえるが、幼少期のトラウマで言葉を話せない。猫とミュージカル映画を愛する隣人、売れない画家のジャイルズと、職場の同僚ゼルダだけが、イライザの小さな世界のすべて。それぞれに孤独を抱える3人は、自分に似た互いを慈しむほどに確かな絆で結ばれていたが、イライザは諦めている。水中に住んでいるようなもどかしい孤独感は、誰にもわかってもらえない、と。
核戦争の危機が忍び寄る冷戦下。アメリカ政府の機密機関で深夜、清掃係として働くイライザは、日めくりカレンダーに「時は過去から流れる川に過ぎない」と記されていたある日、極秘に運び込まれた他の誰とも違う“彼”と出会う。ありふれた言葉で飾る必要もない“彼”との逢瀬に、ささやかな幸福を見出すイライザ。だが“彼”は、人間の傲慢さの犠牲になる運命だった。
クリーチャーと言えば、不気味で恐ろしいのが定番で、自身もこれまでに定番モノを手掛けてきたギレルモ・デル・トロ監督だが、今作では、見たこともない美しさを備えたクリーチャーを誕生させることに成功。演じたのは、アカデミー賞受賞作「パンズ・ラビリンス」を含め長年、デル・トロとコンビを組んできたダグ・ジョーンズ。ナイス・バディのフォルムがセクシーなイケメン(顔はほぼ見えないのに)クリーチャーのあられもない姿(そもそも素っ裸ですが)には、どきっとさせられるほど。
映画を観ている間は、女性はだれもがイライザ。耳は聞こえるけれど、話せない、孤独な女。というこじつけはさておき。サリー・ホーキンスの演技力のたまもので、手話なのに、ちゃんとイライザの声が聞こえるって思えてしまうから、恋する気持ちばかりか、閉ざされた世界で、誰にもわかってもらえない思いを抱いていた彼女に共感を寄せたとしても不思議じゃない。“彼”は、イライザと同じ「世界」に生きる。いや、彼女が“彼”と同じ世界に生きるべきだったのか…。
マイケル・シャノンが演じたのは、主人公を追いつめる残忍で悪辣なストリックランド。任務遂行に執念を燃やすエリート軍人もいわば“クリーチャー”なのだが、その実、使い捨ての駒に過ぎないちっぽけ人間として描かれている。夢に裏切られ失望を重ねるジャイルズに、「扉をたたく人」のリチャード・ジェンキンス。本作の舞台、1962年と前後した映画「ドリーム」では、姐御感を披露したオクタヴィア・スペンサーが扮するゼルダは、空虚な夫婦生活にある。主要キャスト全員、監督があて書きしたとはいえ、絶妙の脇役ぶりで主人公をサポート。何気ないユーモラスなやりとりですら、人間の哀しみを滲ませる。
ふんわり青のシフォンをまとった哀しげな映像美が、かすかな光をなげかける。生きているうちに、失われてしまった希望の輝きを、イライザは“彼”の瞳の奥に見出したのではないか。だとすれば、過去ではなく未来を信じる愚かさを好ましいと思う。大人こそ、時々は夢見てもいいのだと言いたい。甘い夢は、苦さを知る大人にこそ、味わい深い人生の真実でもあるのだから。
(柳 博子:映画ライター)
公式サイト⇒ http://www.foxmovie-jp.com/shapeofwater/
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