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『羊の木』

 
       

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作品データ
制作年・国 2018年 日本 
上映時間 2時間6分
原作 山下たつひこ、いがらしみきお著「羊の木」(講談社イブニングKC刊)
監督 吉田大八
出演 錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、松田龍平他
公開日、上映劇場 2018年2月3日(土)~全国ロードショー
 
 

~訳ありの新住民たちと地方都市の人々が織りなすミステリアスな群像劇~

 
黒沢清監督の作品かなと思うぐらい、少しダークで重い雰囲気を漂わせながらも、ふっと笑いを滲ませる。これは吉田大八監督の新境地なのかもしれない。山下たつひこ、いがらしみきお原作「羊の木」を映画化した本作。地方都市の人々と訳ありの新住民たちとが織りなす人間模様を見ると、人間がどうやって他人を受け入れ、何があった時にその信頼が覆るのか。そして、もし自分が受け入れる立場なら、どんな態度を取るだろうと考えるのだ。決して突飛すぎる設定ではなく、人口減少時代にありえそうな設定なのがいい。
 
 
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舞台はさびれた港町。市役所の職員、月末(錦戸亮)は、上司から新規転入者の受け入れ担当を任命される。雇用先も住む場所も決まっている6人の男女が、パラパラと町にやってくるのを出迎えるうち、月末はそれぞれが尋常ではない雰囲気を醸し出していることに気付く。月末が問いただすと、上司は刑務所のコスト削減と地方の過疎対策を兼ねた国家プロジェクトと題して、彼らは自治体が10年の定住を条件に身元を引き受け、刑期を短縮されて出所した元受刑者だと告げるのだった。極秘プロジェクトの任務を遂行しながら、東京から戻ってきた同級生文(木村文乃)とバンド活動をする月末だったが、文と元受刑者で引越業に勤めはじめた宮腰(松田龍平)が付き合い始めたのを知り…。
 
 
 
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職務として“新住民”の世話をする月末は、群像劇の中でも一番周りに翻弄される存在だ。文が宮腰と距離を縮めただけでなく、要介護の父が、介護センターで働く新住民の太田(優香)と恋仲になってしまうのだから。息子の心配をよそに、人生最後の恋を楽しむ父。優香のエロチックな雰囲気が父の老いらくの恋を微笑ましくみせる。一方もう一人の新住民、清美(市川実日子)は清掃ボランティアをし、死がいを見つけてはアパート横に穴を掘って埋葬する。この無口な女性がたまたま拾った缶の蓋こそ、タイトルにもなっている「羊の木」。土から芽吹くものは何なのか。意味深なニュアンスを残す。
 
 
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町の人たちが一つになる「のろろ祭り」は、個々の新住民が意図せず会する場となり、祭りならではの熱狂と共に、思わぬ正体を露わにする者も現れる。月末が友情を抱いていた宮腰の過去と、その過去を突きつけた人間の不信な死。ミステリーの要素が強くなると同時に、一旦受け入れた人間の過去を知った時、どんな態度を取るのかと、登場人物たちの心の揺らぎにもハラハラドキドキする。雇用主のクリーニング屋店主(安藤玉恵)、散髪屋店主(雨森辰夫)が、過去を知った時にかける言葉は、この物語の中の希望の一つだ。
 
 
 
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月末と宮腰の関係が友人から恋敵に変わった時、今まで溜まっていた本音が露わになり、後半のクライマックスに向かって加速する。作り笑顔から始まった交流を経て、相手の素顔を知った時、絶望し、拒絶するのか。はたまた、それでも相手と対峙するのか。人と人との繋がりや、コミュニティでどう支えていくのかを考えるきっかけを与えてくれるサスペンス調群像劇。そのさじ加減の絶妙さに唸った。
(江口由美)
 
(C) 2018『羊の木』製作委員会 (C) 山上たつひこ、いがらしみきお/講談社