原題 | THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI |
---|---|
制作年・国 | 2017年 アメリカ |
上映時間 | 1時間56分 |
監督 | マーティン・マクドナー |
出演 | フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、ジョン・ホークス、ピーター・ディンクレイジ |
公開日、上映劇場 | 2018年2月1日(木)~TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条、西宮OS)など全国ロードショー |
娘を殺された母親の憤怒が毒となって、
人間の心の暗くて深い闇に沁みこんでいく。
アメリカ・ミズーリ州の小さな町で、ひとりの若い娘が殺害された。レイプし焼き殺すという残忍きわまりない事件の捜査は、何の手がかりもないまま7か月が過ぎようとしていた。そんなある日、警察署内をざわつかせる出来事が起こる。被害者の母親ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)が、19歳の小娘のもとに走った元夫(ジョン・ホークス)の車を売り払った5000ドルで、広告屋レッド(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)と契約。町のはずれにある3枚の広告看板に、いまだ犯人を逮捕できずにいる警察署長ウィロビー(ウディ・ハレルソン)への抗議文を掲げたからだ。
思いがけない“宣戦布告”に応戦する直情型の巡査ディクソン(サム・ロックウェル)。彼にとって署長は、敬愛すべきボスであるばかりか、父も同然の偉大な存在だった。だから、ガンに冒されている署長を非難するなど暴挙としか思えない。彼の忠誠心は、やがて、凄まじい暴力行為に発展するが…。一方、良き家庭人として人生の最後を終えたいウィロビーは、捜査が暗礁に乗り上げたことでさらに心痛を深めていく。
これは現代を舞台にした西部劇とも言える、サスペンスフルなヒューマン・ミステリーだ。
最大の魅力は、次にどう展開するかわからない点にある。そもそも、人間はなにをしでかすかわからない生きものだし、思考と行動がかならずしも一致するとは限らない。主人公ミルドレッドと深くコミットすることで運命を狂わせるディクソン、ウィロビーを通じ、そうした人間の不可思議、愚かさや弱さ強さを、皮肉なユーモアも盛りこんで描いたマーティン・マクドナー監督の脚本は、それ自体が爆発的な破壊力を備えていて魅了せずにはおかない。
カーター・バウェルの音楽も際立った出来栄え。それにしても、この感動的ですらある結末には驚かされた。
実は、事件当夜、娘と口論した後悔に苛まれているミルドレッド。安い同情心を玉砕する“ランボー”の風貌だが、その精神はむしろ「許されざる者」のイーストウッドか。悲劇の渦中で絶望に打ちひしがれるより、たとえはみだし者と忌み嫌われても娘の無念を晴らしたい。神父をやりこめたり、歯医者に反撃するなど、常識を超えた母性愛をフランシス・マクドーマンドが巧みに演じている。一見、理解に苦しむ主人公への共感を誘い、次第に高めていくのだから見ものだ。
さらに、実力派俳優たちの曲者キャラクターとは異なる立ち位置で、姉の死のショックにひとりで耐えていた弟ロビーに扮したルーカス・ヘッジズ(「マンチェスター・バイ・ザ・シー」でアカデミー賞候補となった)も見逃せない。映画では描かれてはいないが、悲しみのあまり自制を失った哀れなこの母を、冷静に見守ろうと努めるロビーは、肝っ玉かあちゃんに頭のあがらないディクソンよりも、重苦しい絆を背負っているのではないか。静かな怒りをにじませた演技に、切ない思いが拭えなかった。
柳 博子(映画ライター)
公式サイト⇒ http://www.foxmovie-jp.com/threebillboards/
(C)2017 Twentieth Century Fox