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『はじめてのおもてなし』

 
       

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作品データ
原題 Willkommen bei den Hartmanns 
制作年・国 2016年 ドイツ 
上映時間 1時間56分
監督 監督・脚本:サイモン・バーホーベン
出演 ゼンタ・バーガー、ハイナー・ラウターバッハ、フロリアン・ダービト・ヴィッツ、バリーナ・ロジンスキー、エリアス・ムバレク、ウーベ・オクセンネヒト、ウルリケ・クリーナーエリック・カボンゴ
公開日、上映劇場 2018年1月13日(土)~シネスイッチ銀座、1月27日(土)~シネ・リーブル梅田、2月10日(土)~シネ・リーブル神戸、その他京都シネマなど全国順次公開

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~難民を受け入れたドイツの家族、その顛末は?~

 

昨今、世界的にも大きな耳目を集めているヨーロッパの難民問題。日本人にとってははるか彼方の異国の出来事にしか思えないけれど、実際、現地に行くと、かなり切実な社会問題になっている。以前、この欄でも書いたと記憶しているが、2015年の夏、テーマワークの「ケルト」の取材でドイツを訪れたとき、南部の大都会ミュンヘンの中央駅で到着した列車からシリア難民がぞくぞくと下りてくるのを目撃した。みな不安と安堵感が入り混じった独特な表情をしていたのを覚えている。メルケル首相が難民の受け入れを正式表明する前のことだった。

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難民問題はべつに今に始まったことではない。大昔から戦や飢饉が起きれば、難民が生まれ、彼らは安全な地へと逃れてきた。近年では第二次大戦後、紛争・テロ・治安悪化などで祖国を捨て「裕福な」ヨーロッパを目指すアジア、アフリカの人たちが後を絶たない。ところが今回のシリア難民は一気に、しかも大量に流入してきたことからとりわけ注視された。これまで「寛容なる精神」で異文化を受容してきたヨーロッパにいろんな軋轢が生じ始めた。難民・移民の排斥を訴える極右政党や差別主義的な組織が台頭し、政治的にも揺れ動いている。

 
 


kibouno.jpgそんな状況が反映され、難民をテーマにした映画も次々に製作されてきた。パキスタンの難民キャンプからロンドンに向かう青年を追ったマイケル・ウィンターボトム監督のイギリス映画『イン・ディス・ワールド』(2002年)、シリア難民に肉迫したドキュメンタリー映画『シリアに生まれて』(2016年)、アフリカからの難民で揺れる地中海の島を活写したイタリア映画『海は燃えている』(同)……。フィンランドのアキ・カウリスマキ監督も『ル・アーヴルの靴みがき』(2011年)に続いて、最新作『希望のかなた』(2016年)で再び難民を取り上げ、欧州人に「寛容さ」を強く訴えた。


さて、ドイツ映画の本作、これはもろに難民に斬り込んでいた。欧州最大の経済大国になったドイツは1951年以降(西ドイツ時代を含む)、540万人もの難民・移民を受け入れてきたという。当然、彼らはドイツ国民にとって身近な存在になったとはいえ、自分たちとは一線を画した、あるいは巻き込まれたくない「やっかいな人たち」にも映る。そんなシリアスな問題だけに、ストレートに描くと、観るのがしんどくなる。ならば、コメディー仕立てにするしかない。そんなノリでこの映画が作られたようだ。


hajimeteomotenasi-500-1.jpg舞台はシリア難民のドイツでの最初の玄関口になるミュンヘン。それも郊外の高級住宅地で暮らすブルジョア家庭に焦点を当てる。夫リヒャルトは大病院の外科医長、妻アンゲリカは教師を定年退職した有閑マダム、長男フィリップはやり手の企業弁護士だが、働きすぎが原因で妻と離婚、彼の息子バスティはラップとゲームが大好きな12歳の少年、そして31歳の長女ゾフィはいまだ大学生で、プー太郎状態。これがハートマン家である。


見るからに先進国の裕福な中産階級丸出し。何不自由のない生活で、一見、幸せそうだが、実は各人、あれこれと悩みを抱えており、家族の「絆」はあまり強そうに思えない。個人主義が当たり前のヨーロッパではよく見られる家族模様だ。1人ひとりのキャラクターをじんわりと浮き彫りにしていくプロセスがうまく描かれていたと思う。


hajimeteomotenasi-500-2.jpgそんなハートマン家にナイジェリア難民がやって来る。家族として受け入れると言い出したのが妻アンゲリカだ。ぎこちない家庭を何とか変えたい、自分の生き方に刺激を与えたい、そういう動機と難民支援に力を注ぐ友人の影響によって、久しぶりに家族が勢ぞろいした夕食の場で唐突に提案したのだ。……。夫リヒャルトと息子フィリップは即、反対し、娘ゾフィは賛成する。男女でくっきり差が出た。男の方が頭が固く、偏見に満ちているということなのか。


hajimeteomotenasi-500-3.jpgその難民がディアロという青年。心根が優しく、自ら率先してドイツ人家庭に溶け込もうとするナイスガイだ。内戦時の想像を絶する凄まじい殺戮で家族を失い、単身、死ぬ物狂いで祖国を脱出してきていた。天涯孤独の身。決して口にしなかったこのおぞましい体験を、後半になって吐露するシーンが何とも感動的だ。過酷な体験はなかなか口に出せないもの。難民の人たちはきっと言い知れぬ過去を抱いているのだろうなぁ。


hajimeteomotenasi-500-4.jpgそんなディアロを文化、風習、宗教、生活習慣などがことごとく異なる「やっかいな存在」と受け止める人、それに対して戦争・紛争の犠牲者として受け入れたいと思う人がいる。それがドイツの、いやヨーロッパ諸国の現状だ。二者択一。シロクロはっきりしている。ハートマン家の家族は中産階級独特の寛容さと良識はあるものの、それでも男性陣が受け入れに躊躇・反対する。そこのところが象徴的だった。


さらに難民・移民排斥を声高に訴えるネオネチ・極右グループや「無知」な住人が過剰な反応を起こす。それはすべて誤解によるもの。偏見が強いと、何もかもマイナス面に見えてくる。驚いたのは警察の監視だった。ディエロを尾行したり、ドローンを使ってハートマン家の室内まで調べたり……。本当にこんなことが行われているのかな。これもディエロがテロリストではないかという過剰反応。どこの国でも、公安警察としてそうした防衛線を張るのは定石かもしれないが、やはり滑稽に思えてしまう。


hajimeteomotenasi-500-5.jpg異文化とのふれ合いから融合へ。てっきりそういう映画になると思っていたら、異分子のディエロが家庭に入ってきたことで、バラバラになっていた家族がまとまるという極めてわかりやすい結末だった。彼はハートマン家にとっての「功労者」、そんなふうにも見て取れる。だから本作は難民の映画というより、家族ドラマという方がいいかもしれない。


難民問題に絡むあらゆる要素がてんこ盛りに詰め込まれていた。いささか情報過多に思えたものの、コミカル風味だったので別段、息苦しくならなかった。ハリウッド映画ばりのハッピーエンドで、能天気なところも多々あった。実際に難民を受け入れると、決して笑い事では済まされないと思う。それでも一般人の目線から難民問題を見据えた姿勢は高く評価したい。何にも増して嬉しかったのは、「ややこしい」「きな臭い」空気が漂い始めたように思えるドイツで、まだまだ良識を持つ人が多いのだとわかったこと。ほんま、ホッとしましたわ。


武部 好伸(エッセイスト)

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