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『新世紀、パリ・オペラ座』

 
       

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作品データ
原題 L'Opera 
制作年・国 2017年 フランス 
上映時間 1時間51分
監督 ジャン=ステファヌ・ブロン
出演 ステファン・リスナー総裁、オレリー・デュポン、バンジャマン・ミルピエ、フィリップ・ジョルダン、ロメオ・カステルッチ、ブリン・ターフェル、ヨナス・カウフマン、オルガ・ペレチャッコ、ミヒャエル・クプファー=ラデツキー、ジェラルド・フィンリー、ミハイル・ティモシェンコ、アマンディーヌ・アルビッソン、エルヴェ・モロー、ファニー・ゴルス
公開日、上映劇場 2017年12月9日(土)~Bunkamuraル・シネマ、12月16日(土)~シネ・リーブル梅田、12月23日(土)~京都シネマ、12月30日(土)~シネ・リーブル神戸、2018年2月20日(土)~ユナイテッド・シネマ橿原、ほか全国順次ロードショー

 

これぞ、“新生パリ・オペラ座のすべて”!
変革を迫られる中、世界最高の舞台芸術を担う人々の奮闘記

 

こんなパリ・オペラ座見たことない! 華麗な舞台からは想像もできない舞台裏の奮闘ぶりは、コミカルでスリリングで感動的。近年のパリ・オペラ座に関するドキュメンタリー作品の中でも群を抜いて面白い。バレエやオペラをあまり知らないスイス出身のジャン=ステファノ・ブロン監督だからこそ、“芸術の殿堂”の実像を浮き彫りにできたのだろう。舞台上のスターではなく舞台裏の人々に着目した視線から、最高の舞台を維持し続けるハイレベルな伝統文化や技術、そして人々の情熱が伝わってくるのだ。


LOpera-500-1.jpgブロン監督は、20015年1月~2016年7月、約1年半かけてパリ・オペラ座を撮影した。丁度その頃、ルイ14世以来350年の歴史と伝統のあるパリ・オペラ座も苦しんでいた。寄付金の減少に加え文化相からの助成金減額、リストラ、ストライキ、新芸術監督とダンサーとの軋轢、そして、パリ市内で続発するテロ事件など問題は山積。新総裁ステファン・リスナーの下で常に世界最高の舞台を維持しようと奮闘する人々の存在が光る。


最初リスナー総裁は撮影に抵抗を感じていたという。パリのシャトレ座からパリ管弦楽団やイタリアのスカラ座などの総監督を歴任してパリ・オペラ座に就任したリスナー総裁は、常にカメラに付きまとわれるのを嫌い、本企画をはじめいくつかの撮影オファーを断っていた。だが、ブロン監督の過去のドキュメンタリーを観て、彼の持つヒューマニズム、眼差し、思いやりに心を動かされ、彼なら新作オペラ作品の創作過程をありきたりな演出ではなく丹念に撮ってくれるのではと思ったらしい。被写体を気負わせることなく自然体で捉えた映像は、苦難の転換期を超り越えようとするパリ・オペラ座の人々と、結果的には最高のシーズンとなったオペラ公演の様子を捉えた大変貴重な記録となった。これはクラシックファンならずとも必見の作品である。


LOpera-500-2.jpg新総裁ステファン・リスナーは、バンジャマン・ミルピエ(“ナタリー・ポートマンの夫”として知られる)を新たに芸術監督として迎えたバレエと、フィリップ・ジョルダン音楽監督によるオペラの新企画で新しいシーズンを迎えようとしていた。冒頭、パリ・オペラ座バスティーユの最上階にある総裁の部屋で、そのスピーチ原稿を協議しているところから始まる。総裁が「世界最高のバレエ団…」と言うと「“世界最高”は要らない」。なぜなら「当然のことだから」と返される。また、文化相からの助成金に触れようとすると、スポンサーに「金回りがいい」と思われては困るので、これもNG。いきなり本音トークの連発で爆笑してしまう。あの崇高なパリ・オペラ座の最高幹部たちのあまりにも明け透けな会話にびっくり!


丁度同じ時期のバレエ団を捉えたドキュメンタリー『ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男~』(ティエリー・デメジエール/アルバン・トゥルレー監督)とあわせて観ると、より面白くなる。ミルピエがわずか1年半で辞任する羽目になった理由もリスナー総裁とのやりとりで明かされる。パリ・オペラ座はガルニエ(旧劇場)とバスティーユ(新劇場)の二つの劇場があり、9月から翌年の6月にかけて400本の公演を開催。1500人に及ぶ職員を抱える大所帯だ。本作は、今まで映画化されたバレエ団よりオペラ中心のバスティーユに重点を置いて撮影している。


LOpera-500-4.jpgその中でも、コーラスとオケが主役の新作オペラ『モーゼとアロン』の創作風景が実にドラマチック。すったもんだの1年がかりのコーラスの練習風景や、本物の巨大な牛を舞台に登場させ、人も牛も床も黒い塗料まみれになるシュールな舞台演出に度肝を抜かされる。イージーライダーという名の巨大な牛が大人しく演出通りに動くのに、誰ひとり演出家の言うことを黙ってきかない。言いたい放題の討論勃発も滑稽に映る。これも芸術家ならではの情熱の為せる技なのだろう。一番ハラハラしたのは、オペラ『ニュルンベルクのマイスタージンガー』の公演2日前の主役交代劇である。ぶっつけ本番で主役を張れる歌手を必死で探し、何が何でも予定通り幕を開ける! この時ばかりは組合もストライキも関係なく一丸となって舞台を成功させようとする団員たちの意気込みを感じた。


LOpera-500-5.jpg大注目の若手オペラ歌手を発見!若手育成プログラムで採用されたロシア出身の24歳のミハイル・ティモシェンコの成長ぶりが、本作の「新世紀」を象徴している。ブロン監督は、彼が採用される前から「彼に運を感じた」と注目し、フランス語を勉強しながら憧れの大スター、ブリン・ターフェルに学ぶ初々しい姿を捉えている。他にも、クラシック音楽に触れる機会の少ない主に移民の子供たちに、パリ・オペラ座の楽団員が丁寧に演奏を教える光景も印象的だった。


LOpera-500-6.jpg続発するテロ事件の影響を受けながらも、粛々とパリ・オペラ座の公演を続行する人々。「舞台芸術という文化は、決して残虐行為に屈しない!」と熱く語るリスナー総裁。その言葉の後1分間の黙とう。その間、舞台会場だけでなく保安警備室や清掃室や厨房など、劇場の各部所で働く人々を映し出す。多くの人々の想いがこの舞台公演を支えていることに気付かされる瞬間だった。


本作を通して、改めてパリ・オペラ座の歴史の重みと伝統を継承する意義の大きさを実感した。と同時に、リスナー総裁をはじめ多くの人々のプロフェッショナルな仕事ぶりにも感服。もっと多くの人々に劇場に足を運んでもらいたいと料金引き下げる検討もしている。この映画に収められたシーズンは、“世界最高”を自負するバレエ団の公演と共に、新企画のオペラ公演が大成功した近年にない充実のシーズンだったようだ。パリへ観に行けなかった者としては、是非とも劇場で楽しみたいと心から思う。


(河田 真喜子)

公式サイト⇒ http://gaga.ne.jp/parisopera

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