制作年・国 | 2017年 日本 |
---|---|
上映時間 | 1時間59分 |
原作 | 中原尚志・麻衣「8年越しの花嫁 キミの目が覚めたなら」(主婦の友社) |
監督 | 監督:瀬々敬久(「64-ロクヨン-前編/後編」) 脚本:岡田惠和(「最後から二番目の恋」) |
出演 | 佐藤 健、土屋太鳳 北村一輝 浜野謙太 中村ゆり 堀部圭亮 古舘寛治 杉本哲太 薬師丸ひろ子 |
公開日、上映劇場 | 2017年12月16日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹、他全国ロードショー |
現代版『ある愛の詩』、もしくは『愛と死をみつめて』
希少な純愛物語にしっとり……
今の時代、“流行らないテーマ”かも知れない。だけど、これほど純粋な愛を謳い上げた映画が近頃あっただろうか。その希少さが、今だからこそ多くの共感を呼ぶのではないか。「愛」は何よりも強く、温かいのだから…。
近ごろ「愛」や「恋」という言葉がずいぶん薄っぺらくなった感がある。とりわけ映画、テレビで描かれる「愛情」にはそういう傾向がありそうだ。だけど過去、多くの人の心をとらえてきたのもその美しい言葉に違いない。不朽の名作と言われる『ある愛の詩』(‘70年米、アーサー・ヒラー監督)や『愛と死をみつめて』(‘64年日活、斎藤武市監督)など、若者も現シニアもこんな「愛の名作」を見て育ったのではないか。青春の一時期、誰もがこんな映画に打たれ、涙した記憶が鮮やかに残っているはずだ。
松竹の正月映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(瀬々敬久監督)はそれほどピュアな愛が描かれる。映画ならどんなフィクションも可能ではあるが、サブタイトルに「奇跡の実話」とあるように「ホンマにあった話」。ドキュメンタリー映画ではないものの“真実の愛の物語”に、引き込まれる。久々に“美しい愛”を目の当たりに出来た満足感に満たされた。
2015年2月15日、岡山の結婚式場がYOU TUBEに1本の動画を投稿した。このタイトルが『8年越しの結婚式』。この動画が瞬く間に日本全国に感動を呼んだ。次に書籍になり、TVドキュメンタリーにもなって話題は盛り上がった。そしてちょうど2年後の2017年2月14日“ある結婚式場”で1本の映画がクランクアップした。タイトルは『8年越しの花嫁 奇跡の実話』。
“無私の愛”が多くの人の心をとらえ、ひとりでに大きくなって、映画自ら多くの要望にこたえようとしたのかもしれない。公開までのいきさつからすでに“奇跡の実話”めいている。2006年、結婚式を間近に控えた幸せなカップル尚志(佐藤権)と麻衣(土屋太鳳)を突然の不幸が襲う。麻衣が原因不明の病に倒れ、そのまま意識不明に陥った。「将来を誓った婚約者の不幸」…誰にとっても決してめぐり合いたくない事態に違いない。
“飲み会”で知り合った二人はのつきあいは麻衣の「体当たり抗議」から始まった。飲み会で居心地悪そうにしていた尚志に、麻衣が「来た以上は楽しそうにしていなければ」ときっぱり怒りの弁。驚いて謝る尚志。正反対の性格ゆえに“似合いのカップル”になった二人が付き合い始めてから2年。尚志が麻衣にプロポーズ。結婚式場を予約する。日取りは、二人が出会った3月17日。だがその後、突然の頭痛が麻衣を襲う。大事な二人の思い出も麻衣の記憶からひとつひとつ失われていく。まさに悲劇としか言いようがない。やがて病状が急変した麻衣は意識不明のまま、病院に運び込まれる。なんと…。
尚志の切なる願いが実ったか、麻衣は「心肺停止状態」から何とか蘇生する。だが、昏睡状態に陥ってしまう。診断は、抗UMDA受容体脳炎。回復の見込みが立たない深刻な難病だった。いわゆる“難病映画”ではなく、見どころは実はここから。尚志は毎朝、出勤前にバイクで麻衣を見舞う。眠り続ける麻衣と自分を動画に収めるのが彼の日課になった。それは尚志の“祈りの気持ち”にほかならなかった。
もちろん、式場もキャンセルせず「毎年同じ日に」予約し続ける。そんな尚志を気遣って、麻衣の母・初美(薬師丸ひろ子)、父・浩二(杉本哲太)は悲しみを押し殺して「麻衣のことはもう忘れて」と伝える。だけどこれで逆に尚志の心は固まった。「麻衣を待つ。いつまででも待ち続ける」この決意こそ若者たちやシニアの心を打ったセリフだ。ほとんど眠り続ける彼女、手を動かすぐらいしか出来ない麻衣に、付きっきりで献身的な尚志の姿に心動かされない人はいないだろう。
2008年7月、寝たきりだった麻衣の目が開く! だけど、二人の苦闘はまだ終わらない。彼女は「記憶障害」のため、目の前の“恋人”尚志のことが分からない。昏睡状態だった時よりもこちらの方がよりツラいかも知れない。だが尚志は健気に記憶を取り戻そうと奮闘する麻衣をじっと見守り続ける。麻衣の懸命のリハビリが始まる。記憶と戦うことが麻衣の負担になるのでは、と案じた尚志は、ある苦渋の決断を下すのだった…。
「8年越し」などほとんど“あり得ない長時間”かも知れない。だが、だからこそ「奇跡の物語」として多くの人びとの胸を熱くするのではないか。今の時代に甦った「純粋な愛の物語」が若者たちにどう受け入れられるか、実に興味深い。
(安永 五郎)
公式サイト:http://8nengoshi.jp
©2017映画「8年越しの花嫁」製作委員会