原題 | BRAIN ON FIRE |
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制作年・国 | 2016年 カナダ・アイルランド |
上映時間 | 1時間29分 |
原作 | 「脳に棲む魔物」スザンナ・キャハラン著・澁谷正子訳(KADOKAWA刊) |
監督 | 監督・脚本:ジェラルド・バレット 製作:AJ・ディクス、ベス・コノ、シャーリーズ・セロン、リンジー・マカダム、ロブ・メリリーズ |
出演 | クロエ・グレース・モレッツ、トーマス・マン、キャリー=アン・モス、リチャード・アーミティッジ、タイラー・ペリー、ジェニー・スレイト |
公開日、上映劇場 | 2017年12月16日(土)~角川シネマ有楽町、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、MOVIX京都、他全国ロードショー |
原因不明の難病、
日本でも症例が報告された、その驚くべき正体とは
原因がわからず、解決策もみつからず、見通しの立たない不安というものを味わったことがあるだろうか。悩みというのは、たいていそうだとも言える。でも、それが命に関わることだとしたら・・・。
スザンナ(クロエ・グレース・モレッツ)は将来を嘱望されたニューヨーク・ポスト紙の若きライター。ミュージシャンの恋人もいて、恋に仕事に、夢と希望と刺激に満ちた毎日を送っていた。しかし、ある日突然、原因不明の不調に襲われる。めまい、不眠、食欲不振、情緒は安定せず仕事でも重大なミスを犯し、周囲からけげんな目で見られるようになる。そして状態は加速度的に悪化、人格は錯乱したかのようにも見え、ついには発作を起こして病院にかつぎこまれる。
医療現場や病気を扱った作品は多いし、医療情報番組も根強い人気があり、ごくありふれた症状が実は深刻な病気の前ぶれだった、というような番組もよく見かける。これは結末ありきで時間を遡って原因を探ってゆくのだから、ある程度安心して観ていられる。しかし、何かが音もなく進行するなかで正体もわからずそれを追うのは恐怖だ。その点でこの映画はサスペンスの要素も含んでいるし、病根という犯人捜しの意味ではミステリーとも言え、89分というコンパクトさでありながら中身の濃さに最初から最後まで圧倒される。主人公に感情移入して観始めるものの、当の本人が意識もうろうとし始めるため後半は感情移入する対象すら見失い、まるで迷路に入り込んだよう。この辺りの語り口は絶妙だ。
「抗NMDA受容体脳炎」2007年ようやく名前を得たこの病気は古くは悪魔憑きなどと呼ばれ、ホラー映画の金字塔「エクソシスト」のモデルになった少年(映画では少女の設定)もこの病に侵されていたのではないかと言われている。日本でも症例が報告されており、本作と同日公開の『8年越しの花嫁』(佐藤健・土屋太凰W主演)もこの病気を扱った映画だ。
製作はあのシャーリーズ・セロン。人間には使命があると言うけれど、ニューヨーク・ポストのライターがこの病気にかかったのは運命なのか。果たして、闘病記は全米でベストセラーとなり、この病気を広く世間に知らしめることに貢献した。そして、映画化によってさらに多くの人の知るところとなるだろう。驚異の物語の脇を固めるのは、母親役のキャリー=アン・モス、父親役のリチャード・アーミティッジ、また、恋人を演じたトーマス・マン等、スザンナを支えようとしながら自らも葛藤する姿は真に迫っている。
とにかく息をのむ展開。クロエの演技はただただ凄いの一言だが、丹念な取材の元、プロデューサー、監督、スタッフ、キャストが一丸となり、原作者スザンナ・キャラハンの、この病気を多くの人に知ってもらいたい、この病気に罹っている人、まだそれに気づかず治療に着手できない人々を救いたいという熱意がこもった渾身の作品だ。込められたメッセージは深いが、実話という点に頼らず、作品そのもので勝負しているところも凄い。
(山口 順子)
公式サイト⇒ http://kanojo-mezame.jp
© 2016 On Fire Productions Inc.