原題 | JOTA de Saura |
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制作年・国 | 2016年 スペイン |
上映時間 | 1時間30分 |
監督 | カルロス・サウラ |
出演 | サラ・バラス、カニサレス、ルロス・ヌニェス、ミゲル・アンヘル・ベルナ他 |
公開日、上映劇場 | 2017年12月23日(土)~第七藝術劇場、2018年1月13日(土)~京都シネマ、元町映画館他全国順次公開 |
~フラメンコのルーツ、ホタの魅力を堪能!~
『J:ビヨンド・フラメンコ』というタイトルを見て、フラメンコに関係のある映画であることは分かるものの、“J”って何だろう?と気になるのは私だけではないだろう。スペイン語の原題は“JOTA(ホタ)。”日本では、スペイン舞踊と言えばフラメンコのイメージが強い。だが本当は日本の踊りにも様々な種類があるように、スペイン舞踊にも様々な起源のものがあり、このホタはフランスと隣接したアラゴン州が本場の伝統的なスペイン舞踊なのだ。フラメンコのルーツとも呼ばれるホタ。足かけ10年ほどフラメンコを習っていた私も、ホタのことはこの作品で初めて知った。フラメンコとの共通点や、逆にフラメンコとどこが違うのか。観る前から興味津々だったが、一言で表現すると「似て非なるもの」。初めて見るホタに胸が躍るのだ。
崇高な芸術としてのフラメンコから、人生そのものが滲み出るような重厚感あるフラメンコ、そして生きることを謳歌するがごとく楽しむ宴のようなフラメンコまで、「生命の旅と光」を21幕で表現した『フラメンコ・フラメンコ』のカルロス・サウラ監督。本作でも歴史的な踊りから、最新のもの、アマチュアからプロの踊りまでホタのバリエーションを織り交ぜている。冒頭の「ホタのクラス」では、レッスンを受ける子どもたちの踊りから、ホタの基本ステップが分かるし、「アンソのホタ」ではフォークロア調の民族衣装を着た女性たちが、フォークダンスのように横へ動く踊りを披露し、楽しさが伝わってくる。
フラメンコは、明るい歌もあるが、比較的重く、哀愁漂う曲調が多く、ステップも軽やかというよりは、地面を打ち付けるようなイメージがある。一方、ホタは跳ねるような感じで、ステップも軽やか。全く違うものを見ている印象があった。ただ、ホタの中でも、世界ツアーに密着したドキュメンタリー『パッション・フラメンコ』の記憶も新しいサラ・バラスがミゲル・アンヘル・ベルナと踊る「フラメンコ風ホタ」は、両者の繋がりを強く感じさせ、とても興味深い。舞台装置や見せ方にこだわり、本格的なアーティストを揃えた、まさに芸術的なホタを堪能できる。
余談になるが、リュミエール社が製作した1895年から1905年までの1422本の作品から秀作を選んでデジタル復元し、監督のティエリー・フレモー氏(リュミエール研究所所長、カンヌ国際映画祭総代表)がナレーションを付けた『リュミエール』にて、ホタを発見!リュミエール兄弟が世界にキャメラマンを派遣し、スペインで撮影された「露営のダンス」では大勢のスペイン兵がバラバラにホタを踊り、“映画史初の理解不能な作品”とのシュールなコメントが。戦地でも踊るとは、それだけ大衆に浸透した踊りだったのかと、密かに感動していた。本作の中でも、スペイン内戦時の授業風景を再現、当時のドキュメンタリー映像を挿入するなど、ホタの歴史に自国の歴史も重ね、単なるダンス映画にとどまらない、精神性を感じるのだ。まさに、カルロス・サウラ渾身作である。
(江口由美)
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