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『否定と肯定』

 
       

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作品データ
原題 DENIAL 
制作年・国 2016年 イギリス・アメリカ 
上映時間 1時間50分
監督 ミック・ジャクソン
出演 レイチェル・ワイズ、ティモシー・スポール、トム・ウィルキンソン、アンドリュー・スコット、ジャック・ロウデン、カレン・ピストリアス、アレックス・ジェニックス他
公開日、上映劇場 2017年12月8日(金)~TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、TOHOシネマズ西宮OSほか、全国順次ロードショー

 

世界に衝撃を与えた、ホロコーストの有無を問う裁判をスリリングにドラマ化

 

ヒトラーやナチスが犯した罪に関わることを題材とした映画はこれまで多くあり、これからもさまざまな形で繰り返し作られていくだろうが、本作はそのバリエーションの中でも特異な存在であると言ってもいい。ユダヤ人が受けたホロコーストなんて無かったと主張する歴史学者と対決する、実際に起きた裁判を扱っているのだ。


hitei-koutei-500-2.jpg1994年、アメリカのジョージア州アトランタ、エモリー大学で学生たちに講義を行っているユダヤ人歴史学者のデボラ・E・リップシュタット(レイチェル・ワイズ)は、いきなり一人の男に「学生に嘘ばかり言っている」と攻撃される。その男とは、デイヴィッド・アーヴィング(ティモシー・スポール)。リップシュタットが自著『ホロコーストの真実』の中で、ホロコースト否定論者として取り上げた人物だった。そして2年後、アーヴィングはイギリスのペンギン出版からリップシュタットを名誉棄損で訴え、イギリスの法廷を舞台に、約4年にわたる闘いの火ぶたが切られる。これは、世界からも注目を浴びる裁判となるのだ。


hitei-koutei-500-1.jpgイギリス独特の裁判方針のもとに集められた優秀な弁護団だが、アメリカとは異なるそのやり方が、リップシュタットを驚かせ、不安にさせる。まず、訴えられた側に立証責任があること、判決は陪審員でなく、判事に任せること、法廷ではリップシュタットのみならず、ホロコースト生存者にも証言させないこと。一方、したたかで、舌鋒鋭いアーヴィングは自ら弁護を務めるという。「これでホンマに勝てるんやろか?」とリップシュタットが思うのも当然。しかしながら、スリリングで見どころの多い裁判展開となり、観る者はじわじわと心を奪われていく。しかも、相手を追いつめたと思ったのに“思わぬ伏兵”が…という危機もやって来る。


hitei-koutei-500-4.jpg思想の自由というものは侵されるべきものではない、という視点もあるが、アーヴィングは、ユダヤ人を死に追いやったガス室を霊安室だとまで言い切るのだ。誰もが知っているはずの歴史的事実さえ、それを頭から否定し、けして認めようとしない人々。或る偏った考えのもとに目に蓋をし、耳をふさぎ、事実を歪曲する人々。そして、さらに怖いのは、そのような人々にいともたやすく扇動されてしまう人々がいるということだ。


hitei-koutei-500-3.jpgヒロイン役のレイチェル・ワイズは、ハリウッド大作のあれこれよりも、アレッサンドロ・ニヴォラと共演したマイケル・ウィンターボトム監督作品『I want you』(1998年)の印象のほうが私にとっては強烈だった。アンニュイな雰囲気と、直情的な愛と歪んだ愛のカタチ、アレッサンドロ・ニヴォラのひたむきさと、あっと驚く結末…。好きなんです、この映画。それから20年近くもたっているのに、あの頃とあんまり見た目変わっていないレイチェル・ワイズの美形に驚いた。狡猾さをむき出しにしたティモシー・スポールや、沈着で理知的なダンディぶりを体現したトム・ウィルキンソンの演技にも目を釘づけにされる必見作!


(宮田 彩未)

 公式サイト⇒ http://hitei-koutei.com/
(C)DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016

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