原題 | El Ciudadano llustre 英題The Distinguished Citizen |
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制作年・国 | 2016年 アルゼンチン=スペイン |
上映時間 | 1時間57分 |
監督 | ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーン |
出演 | オスカル・マルティネス、ダディ・ブリエバ、アンドレア・フリへリオ、ノラ・ナバス、マヌエル・ビセンテ、ベレン・チャバンネ他 |
公開日、上映劇場 | 2017年11月18日(土)~テアトル梅田、以降京都みなみ会館、元町映画館ほかで順次ロードショー予定 |
名声や社会的権威がなんぼのものか?
という裏声の現実を、肌身で知った作家の成れの果ては?
映画は、ノーベル文学賞を受けたアルゼンチン出身の作家が受賞スピーチを行うシーンで、まず観客を驚かせる。スウェーデン国王や王妃が列席するなか、彼、ダニエル・マントバーニ(オスカル・マルティネス)は「このような賞に選ばれたことは、芸術家としての衰退を感じてしまいます」と言ってのけるのだ。テレビの実況のような映像を使うことで、本当に起こったことを語るドキュメンタリーかと一瞬錯覚させるのだが、これはその後に展開する衝撃的な物語の序章に過ぎない。そして、映画を観終わった後、彼のこの言葉の持つ意味の複合的な可笑しさに、つい笑ってしまう。
ノーベル賞受賞の余波で、世界からさまざまな招待や講演依頼が、スペインのバルセロナに住む彼のスタイリッシュな豪邸に届くのだが、それらをことごとく拒みつつ、新作のほうはといえば一冊も書けない状況にあるダニエル。ところが、故郷の町、アルゼンチンのサラスから「名誉市民」の称号を贈りたいという知らせになぜか心が動く。二十代の時に逃げるように去った故郷に、秘書も連れずダニエルは単身旅立つが…。
田舎町サラスのエライさんたちに迎えられ、消防車による凱旋パレードがあったり、記念の銅像が作られたり…。幼なじみの歓迎ムードと、“おらが町の有名人”扱いですっかり気を良くしたダニエルだったが、やがてとんでもない事態が続出、挙句の果て、命まで危険にさらされるという羽目に陥る。その中心に在るのは、彼自身の傲慢さ、それと背中合わせの後ろめたさ、そして人々の内にくすぶっていた恨みつらみ、彼を目の当たりにしてどんどん膨らんできた嫉妬心などである。人間の感情というものは、いやはや一筋縄ではいかないもんだなあと思う。主人公を取り巻く人間模様の綾をみごとにあぶり出した脚本の力に圧倒された。
日本で公開されるアルゼンチン映画は少数であるが、近年、非常に印象的なものと出会った。『瞳の奥の秘密』(2009年、ファン・ホセ・カンパネラ監督)、『人生スイッチ』(2014年、ダミアン・ジフロン監督)、『エル・クラン』(2015年、パブロ・トラペロ監督)など、強烈でエグイ後味、ブラックなユーモアから沸々と立ち上がってくる人生のエッセンス。“ラテンの熱い血”という独特のものが影響しているのだろうか。この作品の監督であるガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンの前作『ル・コルビュジエの家』(2008年)も、隣人トラブルをめぐる度肝を抜く作品だった。本作は、2016年のヴェネツィア国際映画祭において、オスカル・マルティネスの主演男優賞を勝ち取っている。ダニエルと同様に、ぜひとも劇場で翻弄されてください。
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://www.waraukokyo.com/