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『彼女がその名を知らない鳥たち』

 
       

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作品データ
制作年・国 2017年 日本 
上映時間 2時間3分
監督 白石和彌
出演 蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう他
公開日、上映劇場 2017年10月28日(土)~新宿バルト9、有楽町スバル座、渋谷シネパレス、シネマサンシャイン池袋、梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、あべのアポロシネマ、T・ジョイ京都、京都シネマ、109シネマズHAT神戸、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー

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愛情と偏執の境界をうろうろさせ、
最後に昇華の域へと導く異色作

 

近ごろ、“イヤミス”なる文学ジャンルが注目されていて、それはイヤな後味を残すミステリーを意味する。日本のイヤミス三大女王と呼ばれているのが、湊かなえ、真梨幸子、沼田まほかるで、この映画の原作はそのうちの沼田まほかる。映画のプレスシートにも「共感度0%、不快度100%」などという言葉が躍っているのだが、イヤミスも沼田まほかるにも全くご縁がなかった人をハナから遠ざけてしまうのではないかと私は心配する。先入観はできるだけ払って、まずは観てほしい、と思う。確かに正統派ラヴストーリーではないけれど、これはまぎれもなく痛々しいほどの情愛が詰まった物語なのだ。


kanotori-500-2.jpg十和子(蒼井優)は15歳年上の陣治(阿部サダヲ)と暮らしているのだが、どう見ても仲睦まじいとはいえない。十和子は陣治の稼ぎに頼るだけで、自分は働きに出ることもなく、ダラダラとした日常を過ごしている。そんな十和子を過剰なほどに心配して一日に何度もかかってくる陣治からの電話もすげなく切ってしまい、陣治のことを「不潔、下品、下劣、貧相、卑劣…」などと悪しざまに切り捨てる。そんな十和子は、ひょんなことから妻帯者でデパートに勤める水島(松坂桃李)と知り合い、深い関係になっていくのだが、一方、ある日家にやって来た刑事から、昔の恋人・黒崎(竹野内豊)が5年前に失踪したことを聞かされ…。


kanotori-500-3.jpg映画は次第にミステリーの色を濃くしていく。水島も黒崎もえげつない男たちであるけれど、「十和子を幸せにできるんは俺だけなんや!」と言う陣治の執拗な愛情もだんだんと薄気味悪くなる。さらに、陣治が血のついた衣類を洗う場面では、仕掛けられている大きな謎を感じる。いったい過去に何があったのか。それが解明され、意外な結末が示された時、驚きと共に、これまで語られてきたことを払拭するかのような、何か静謐で神聖なものに貫かれるような気さえする。タイトルにある“鳥”は何を意味するのか。鳥たちが羽ばたくシーンで、陣治は堕天使だったのかもしれないなどと私は思ったのだった。


kanotori-500-4.jpg大阪の淡路商店街をはじめオール関西ロケで、蒼井優と阿部サダヲが大阪弁を駆使して絶妙な演技を見せてくれる。十和子と陣治の間に流れる空気は冷ややかで重いのだが、台詞の応酬には掛け合い漫才のような面白さがある。それだけに、十和子の姉がなぜか標準語でしゃべっているのが不自然で、大阪人の私には非常に気になった。そういう細かいことまでこだわってほしかったなあ、惜しいなあと思うほど、この作品はもういっぺん観たいと感じさせる独特の個性を放っている。


(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://kanotori.com/

(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会