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『火花』

 
       
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作品データ
制作年・国 2017年 日本
上映時間 2時間1分
原作 又吉直樹『火花』文春文庫刊
監督 板尾創路
出演 菅田将暉、桐谷健太、木村文乃、川谷修士、三浦誠己他
公開日、上映劇場 2017年11月23日(木・祝)~全国東宝系ロードショー
 

~漫才に全てを捧げた男たちの情熱と焦燥の日々~

夏の夜空に、すっと2本の花火が上がっていく。漫才師が主人公の映画でありながら、とても静かで、むしろ厳粛な気分にさえなるオープニングだ。菅田将暉と桐谷健太。大阪出身の、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの二人が、がっぷり四つに組んで、漫才にかける男たちの10年間を演じる。おおさかシネマフェスティバルで二人が助演男優賞(菅田将暉『そこのみにて光輝く』、桐谷健太『オカンの嫁入り』)を受賞する姿を見ていたので、キャスティングを見ただけで期待度マックス。その期待を上回るノリの良い、そして味わい深い演技を見せてくれた。ドラマ版とは違い、2時間で10年の物語を描くのは大変だが、むしろ二人の関係が変化していくのを集中して見ることができる。
 
 
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菅田が演じるのは、若手お笑いコンビ「スパークス」のボケ担当、徳永。熱海花火大会の営業で、スパークスの次に舞台に立ったのが、中堅お笑いコンビの「あほんだら」だった。桐谷演じるボケ担当の神谷の凄さを目の当たりにした徳永は、熱海の飲み屋で神谷に弟子入りを申し出る。「俺の伝記を書いてくれへんか」と弟子入りの条件も型破りの神谷と、徳永の長きに渡る師弟関係が始まったのだが・・・。
 
 
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「神谷さんがおったら、吉祥寺も天王寺や!」意を決して上京した徳永が神谷と再会した時の第一声が、二人の関係を表現している。相方との練習の時間も大事だが、もっと自分たちのお笑いを良くしたい、面白くしたいと願う徳永にとって、神谷はアイデアの泉のような存在。どこにいても、最後は安居酒屋で酒を交わしながら、漫才論を語り尽す。兄弟のように仲の良い二人と、神谷が居候している真樹(木村文乃)と三人で鍋をしながら馬鹿話に花を咲かせるシーンは、幸せな時代の象徴のようだ。思うように稼げなくても、後輩の前で奢ろうとする神谷のプライドを汚さないよう、水商売しながら笑って支える真樹。神谷と同じ夢を見続けていたかったのだろう。
 
 
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はやりすたれの早いお笑いの世界。時代はピン芸人や、コントものへとシフトし、次々と新人が、バトル番組で優勝して売れっ子芸人になっていく。「スパークス」も少しずつ売れていく中、「あほんだら」はなかなか伸びず、時代から取り残される。勝負の世界であるお笑い界の厳しさをリアルに描くところが、他のお笑いの世界を描いた映画と大きく一線を画している。「スパークス」の波も長くは続かず、バイト生活の時間が長くなり、徳永は相方から、新しく生まれてくる家族のためにも解散したいと告げられる。いつまでも夢を追い続けられるほど、自分たちは若くない。多分、今テレビで見るほんの一握りのお笑い芸人以外は、常にどこまで続けるかと葛藤しているのだろう。漫才への思いは強いものの、やることなすこと裏目に出てしまう神谷の葛藤に、売れるのを待つことの難しさが滲む。
 
 
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随所に織り込まれるお笑いの舞台。中でも、静けさが大きな笑いと涙と拍手に変わる「スパークス」のラストライブは圧巻だ。菅田演じる徳永の魂が相方の気持ちもぐっとひきつけ、そして大きな塊になって、観客に向かって吐き出される。お笑いが好き。お笑いしかないねん。たとえ空回りしても、徳永と神谷、そしてその相方たち、しいては同じお笑いの仲間と切磋琢磨した10年間は無駄ではなかった。好きなお笑いで悩みぬいた男たちの、その時苦しくても、後から幸せと思える時間が詰まった2時間だ。
(江口由美)
 
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公式サイト⇒http://hibana-movie.com/ 
(C) 2017「火花」製作委員会
 

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