原題 | FRANTZ |
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制作年・国 | 2016年 フランス=ドイツ |
上映時間 | 1時間53分 |
監督 | フランソワ・オゾン |
出演 | ピエール・ニネ、パウラ・ベーア他 |
公開日、上映劇場 | 2017年10月21日(土)~シネスイッチ銀座、シネ・リーブル梅田他全国順次公開 |
~嘘から始まる出会いを越えて、女が再び立ちあがるオゾン流歴史ドラマ~
毎回、私たちに様々なテーマを提示し、サスペンス、ラブストーリーからミュージカルに至るまで多彩な語り口で魅了するフランソワ・オゾン監督。最新作はモノクロの映像が印象的なミステリーのように見えながら、登場人物たちの嘘や、嘘をつかざるを得ない背景にどんどん惹き込まれていく、第一次世界大戦後のドイツを舞台にしたヒューマンドラマだ。原案は、ドイツ出身の名匠、エルンスト・ルビッチ監督作『私の殺した男』(32)。後半、フランスを舞台にオリジナルの内容を加えたオゾン版は、婚約者を戦争で失ったヒロインの視点に立ち、彼女が謎めいた男との出会いを経て、再び立ち上がるまでを、情感豊かに描き出す。
西部戦線で婚約者フランツを亡くし、今はフランツの年老いた両親と住みながら、日々フランツの墓に花を手向けているアンナ(パウラ・ベーア)。ある日、見知らぬ男がフランツの墓前で涙する姿を見かけるが、その男こそフランツの父、ハンスの元を訪れ、追い返された男だった。フランツのパリ留学時代の友人ではないかと感じたアンナは男に連絡先を伝え、後日アンナたちの家で再会を果たす。フランツとパリで出会ったというその男、アドリアン(ピエール・ニネ)は、アンナたちの前でパリでのエピソードを語るだけでなく、フランツが弾いていたバイオリンで見事な音色を奏で、次第に家族とも打ち解けていく。
家族に馴染むだけでなく、賑やかなことを避けていたアンナがダンスパーティーに出かけようという気持ちになる等、アドリアンは確実に信頼を得ていく。息子や恋人を失った大きな穴を埋めるかのような長くは続かないささやかな幸せを、オゾン監督は柔らかいカラーの色合いで描き、モノクロの現実との差を際立たせる。1年前まではドイツの敵国だったフランスの青年アドリアン。ドイツにいる間は白い目で見られ、あからさまなヤジが飛んでくる。「そのような扱いを受けるのを覚悟でドイツまでやってくるのは、余程の動機があるはず」と、観ている者が探偵気分で、アドリアンの狙いや、フランツとの本当の関係を想像したくなるのだ。
帰国を前にアドリアンがアンナに告げた真実は衝撃的だが、メロドラマに終わらず、今まで受け身だったアンナが立ち上がっていくところは、オゾン監督が現代に向けたメッセージのようにも思える。アドリアンの正体を自分の目で確かめたい。そして、自分の中に芽生えたアドリアンへの思いに正直でありたい。アンナが敵国でありながらも、フランツ同様自らも憧れがあったパリへ向かうまでには、もちろん大きな葛藤があった。すべてを自分の胸に抱えてつく嘘は、愛する人たちを守るための嘘でもある。そして、前半のアドリアン同様、並大抵ではない思いを抱いてパリに降り立ったアンナも、やはり怪訝な目で見られ、意気揚々と国歌を斉唱する戦勝国の風景を目の当たりにするのだ。
戦後のドイツ、フランスを行き来する物語が戦争の傷跡を客観的に映し出す一方、戦争の犠牲となったフランツの生前の姿を、登場人物たちが手紙や想像から、時にはファンタスティックに、時には生々しく蘇らせる。フランツへの複雑な思いを体現したピエール・ニネ、パウラ・ベーアの演技が、今は亡きフランツによって出会った二人の一言では言えない感情を豊かに表していた。何度も思い返し、心揺さぶられる極上の作品だ。
(江口由美)
公式サイト⇒www.frantz-movie.com
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