原題 | DJANGO |
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制作年・国 | 2017年 フランス |
上映時間 | 1時間57分 |
監督 | エチエンヌ・コマール |
出演 | レダ・カテブ、セシル・ドゥ・フランス他 |
公開日、上映劇場 | 2017年11月25日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸、今冬~京都シネマ他全国順次公開 |
~迫害されたジプシーたちの魂はレクイエムと共にある。
戦時中も音楽と共に生きた伝説のギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト~
私がジプシー(ロマ族)の伝統音楽と、スウィング・ジャズを融合させたマヌーシュ・スウィングの創始者、ジャンゴ・ラインハルト(以降ジャンゴ)のことを知ったのは、映画『僕のスウィング』(04)と出会った時だった。トニー・ガトリフ監督が描いた青春映画は、ジャンゴ・ラインハルトの最も忠実な後継者と言わるチャボロ・シュミットが、主人公の少年がジプシーギターを習う先生として出演。サントラは、本作のオープニングの公演で演奏された「マイナースウィング」をはじめ、代表曲が多数収録されている。私が当時習っていたフラメンコもジプシーが発祥の踊りで、国を持たない流浪の民、ジプシーに興味を抱いていたところ、タイプは違えど、思わず踊りたくなる独特のスウィングのリズムと超絶ギターに魅了された。その“伝説”のギタリストに迫った映画は、ジャンゴが生き抜いてきた時代や、ジャンゴを通じて語られるジプシーたちの戦時下における迫害が、彼の音楽と共に描かれている。音楽映画であると同時に、第二次世界大戦下のジプシーたちの生き様を映し出す歴史映画としても非常に心に残る作品だ。
ナチスドイツがパリを占領下に置いていた1943年からフランス解放までに的を絞った本作。既に名門ホールでのステージで大喝采を浴び、人気絶頂だったロマ族出身のギタリスト、ジャンゴ(レダ・カテブ)は、ナチスに目を付けられ、ドイツでの公演を依頼される。プロパガンダに利用しようとしているナチスの申し入れを断り、愛人、ルイーズ(セシル・ドゥ・フランス)の忠告でパリを離れ、母、妊娠中の妻とスイスへの逃亡を決意するが、移り住んだトノン=レ=バンで、ジプシーが迫害されている姿を目の当たりにするのだった。
ナチスドイツを憎みながらも、どこか戦争をよそ事に感じていたジャンゴ。彼の中には「俺たちジプシーは戦争をしない」という自負があった。国もなければ文字もないジプシーは、もめ事があってもコミュニティの中で直接顔を合わせて話し合うことで解決してきたのだろう。音楽も踊りも、人から人へと伝承し、次世代へ残されていく。サインや楽譜などは、彼らがジプシー社会で生きるのに必要なかった。そんなジプシーたちをナチスドイツは迫害の対象とし、彼らの居場所を失くし、時には列車で二度と戻れぬ場所に運び、時には強制労働に担ぎ込む。ジプシーたちの惨状を目の当たりにしたジャンゴがこの世に遺した曲を、この映画では見事に蘇らせている。ギタリストジャンゴが唯一、ギターを弾かない曲として後世に語り継がれることだろう。
冒頭の森の中でたき火を囲みながらの演奏や、パリのホール演奏、ドイツ人邸宅での演奏と最初は純粋に楽しむ音楽が、段々と様々な思惑が絡む音楽という名の武器になっていく。音楽を素直に楽しめるのは、平和だからこそと痛感させられるシーンだ。音楽が人を興奮状態にすることを危惧して細かい規制を並べ立てるナチスドイツに対し、ジャンゴはおかまいなしで、自分の音楽を演奏し続ける。それが味方を救う道でもあるからだ。ヒトラーをも茶化してみせる堂々としたジャンゴ扮するレダ・カテブや、クラッシック映画のヒロインのような美しさで魅了するルイーズ扮するセシル・ドゥ・フランス。二人の見応えのある演技に加え、ジャンゴの母を演じるロマ族の老女の肝っ玉母ちゃんぶりも見事。ロマ族の逞しさを垣間見た思いだ。『大統領の料理人』『チャップリンからの贈りもの』の脚本を手掛けたエチエンヌ・コマールの監督デビュー作。歴史の深部を描きながらも、エンターテイメント要素を忘れない。絶妙のバランスは見事の一言に尽きる。
(江口由美)
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