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『散歩する侵略者』

 
       

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作品データ
制作年・国 2017年 日本
上映時間 2時間9分
原作 前川知大「散歩する侵略者」
監督 黒沢清
出演 長澤まさみ、松田龍平、長谷川博己、高杉真宙、垣松祐里、前田敦子、満島真之介、児島一哉、光石研、東出昌大、小泉今日子、笹野高史
公開日、上映劇場 2017年9月9日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、神戸国際松竹、MOVIX京都他全国ロードショー
受賞歴 第70回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式作品
 

~ゾンビじゃない不気味さと滑稽さ。愛する人が侵略者になった時、妻は…~

 
「散歩」と「侵略者」。まるで日常と非日常が同居するような不思議なタイトルだが、本作を見ると、これこそがこの作品の意図する侵略者の姿なのだと分かる。一緒にご飯を食べる家族のような顔で、その侵略者は地球征服を企んでいるのだから。そして、彼らはゾンビ映画のように人間を襲うのとは違うやり方で、人間の大事なものを奪っていく。ちょっと小銭を借りるかのように、軽々と「それ、もらうよ」。
 
 
 
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独特のトーンとストーリーテリングでスリラーを描き、そこに人間ドラマを滲ませる名匠、黒沢清監督。今回は、劇団「イキウメ」の前川知大による原作「散歩する侵略者」を映画化。舞台で展開した壮大な物語を、映画ならではの仕掛けを使い、より現実との境界線のないボーダレスな侵略劇に仕立て上げた。侵略者として登場するのは、高杉真宙、垣松祐里という今、旬の若手俳優が演じる天野と橘。一見普通の若者だが、彼らは人間から概念を奪い、最終目標の地球侵略のためには人殺しも厭わない。そんな無鉄砲な侵略者を密着取材するために、ガイドとなって彼らと行動を共にするジャーナリストを演じるのは長谷川博己。軽やかな立ち回りから、一般市民への警告スピーチ、果ては侵略者たちとの友情まで見せる、映画のガイドも果たすような存在だ。
 
 
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一方、この二人とは全く違うタイプの侵略者が、ヒロイン鳴海の夫、真治。夫婦喧嘩のあげく家を飛び出した真治が、戻ってきたら別人のように穏やかで、ぼうっとした人物になっていたのだから、むしろ不気味と思うのが普通だろう。真治演じる松田龍平の仙人のような佇まいもさることながら、のれんに腕押しのような真治に腹を立て、お説教をし続ける鳴海を演じる長澤まさみを思わずねぎらいたくなる。無職で日中はふらりと散歩に出かけ、「地球を侵略しに来た」と言う夫。でも、むしろ夫婦の関係は真治が人間時代よりも少しずつ好転していくのが面白い。仕事ですれ違いが多かった時代とは違い、生まれ変わったように見える真治の世話を日々焼いているうちに、やはり愛情を感じていくのだ。周りで起こっている侵略物語と裏腹の夫婦のラブストーリーは、物語の終盤大きな意味を持つ。
 
 
 
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侵略者が人間から概念を奪い、学習していくシーンでは、家族、仕事など誰にとっても生きる上で核となるものを一瞬で奪い去る。奪われた人たちは、抜け殻のようになる場合もあれば、重責から自由になり、子どものように羽ばたいたりもする。概念は人間が人間であるため、なくてはならないものであることを改めて実感するのだ。鳴海が侵略者の真治に「奪って」と懇願した概念は、真治を、そして地球を救うのか。人間の顔をした侵略者と共存する社会になっていくのか。様々な疑問が渦巻く中、独特の世界観に没頭できる黒沢版SF。黒沢作品常連組の小泉今日子が思わぬところで出演しているのもうれしい。
(江口由美)
 
公式サイト⇒http://sanpo-movie.jp/
(C) 2017『散歩する侵略者』製作委員会