制作年・国 | 2016年 日本 |
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上映時間 | 1時間20分 |
監督 | 菊地武雄 |
出演 | 萩原みのり、久保田紗友、渡辺シュンスケ、渡辺真起子、木野花、もたいまさこ他 |
公開日、上映劇場 | 2017年9月16日(土)~第七藝術劇場、元町映画館、京都シネマ他全国順次公開 |
~本当の友達は、言葉がなくても通じ合える~
クラスで常に友達の輪の中にいる人気者のはづき(萩原みのり)と、一人ぼっちで過ごすことが常の委員長、葵(久保田紗友)。絶対に交わらないはずの二人が、共に行動する羽目になるところからドラマが生まれる。しかも、その媒介者となるのは認知症のおばあさん、悦子なのだから、想像をいい意味で裏切る話が展開していくのだ。思春期の少女たちの心の内面を丁寧に描く『ハローグッバイ』は、かつて少女だった大人にもジンジンと響く。
冒頭から、一人ビルのトイレに入り神妙な顔で紙袋からあるものを探すはづきと、自宅で一人っきりの食事をとり、テーブルに置かれた1万円をさっと取り去って学校に向かう葵が映し出される。誰にも見せない二人のプライベートな表情は、孤独さが滲む。葵が通学路の石段を下りると、次の瞬間には、はづきが学校の階段を友達と談笑しながら登っていく。二人の運命がクロスすることを暗示しているかのようなオープニング、そして次々に明かされるはづきと葵の他人には言えない秘密と、菊地監督は次々に私たちを前のめりにさせるような仕掛けを仕込んでいるのだ。
口を開けば「私たち友達よね」「味方だから」と言いながら、本人がいない場所では妊娠したかもしれないはづきの噂をする級友たち。傷つきながらも、周りに合わせて愛想笑いをするはづきが痛々しい。そんな“友達もどき”の級友と一線を画すのが葵だ。たまたま石段で悦子が迷子になった時に二人で居合わせたことが全てのはじまり。ある手紙を届けたいがために徘徊を繰り返す悦子のために一肌脱ごうと、葵ははづきを熱心に誘う。その葵の強い決意は、はづきなら受け入れるという確信があるかのよう。そして、はづきも葵が他の子たちとは違うブレない芯を持っていることに気付いているのだ。本音で怒鳴り合う激しい喧嘩をした二人が、お互いの名前を呼ぶことで見えない壁を越えていく。友達とは共鳴できる相手。相手の雰囲気で察することができる間柄、言葉での確認は要らない。
そんな二人が対峙するのはもたいまさこ演じる悦子と、木野花が演じる同級生の和枝。数十年後のはづきと葵を見るかのような二人の姿は、とても切ないものに映る。悦子が若き日の恋に踏ん切りをつけた手紙を渡す相手はもうこの世におらず、和枝のことも認識できないのだから。そんな悦子の記憶を繋いだのは、若い日に恋人が作ってくれた思い出の歌。数回しか会っていない高校生の二人が口ずさむメロディーに嬉しそうな表情を見せたり、「待ってください。私の気持ちを伝えたくて」と手紙を手に、夜道を駆けていく姿は少女のよう。無声映画を見るような洗練された動きと哀愁、そして独特の茶目っ気をみせる、もたいまさこの演技に心底魅せられる。
はづきと葵の非日常は終わり、学校に戻るとき、二人はそれぞれに自分の問題へ決着をつけ、前に進んでいく。自分を信じて、友を信じて。ひと夏の体験ならぬ、悦子と過ごした体験は、二人を、そしてこの映画をとても豊かにした。役者たちの表情を、台詞の後の余韻まで映し出し、思春期の二人のやるせなさや衝動を見事に表現した青春映画。菊地武雄監督の優しい眼差しが、映画からしっかり届いた。
(江口由美)
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