制作年・国 | 2017年 日本 |
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上映時間 | 2時間09分 |
原作 | 東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』角川文庫刊 |
監督 | 監督:廣木隆一 脚本:斉藤ひろし 主題歌:山下達郎「REBORN」(ワーナーミュージック・ジャパン) |
出演 | 山田涼介 村上虹郎 寛 一 郎 成海璃子 門脇麦 林遣都 鈴木梨央 山下リオ 手塚とおる PANTA 萩原聖人 / 小林薫 / 吉行和子 尾野真千子 / 西田敏行 |
公開日、上映劇場 | 2017年9月23日(土)~大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー |
「人情喜劇」の伝統が根付く松竹映画。
その根強さを感じさせる佳編。
売れっ子ミステリー作家・東野圭吾原作の映画化『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(廣木隆一監督)は東野作品としては異色、と原作を読んで知っていた。どんな映画になるのか、興味は尽きなかったが、「これが松竹映画だ」と答えを見た思いになった。『砂の器』、『張込み』、『点と線』など、松竹が誇る松本清張原作による数々の傑作“ミステリー映画”。その伝統を損なうことなく、もうひとつの伝統である『寅さんシリーズ』の“下町人情喜劇”。異なる二つのジャンルを見事に融合させた、まさに“奇蹟”なのかも知れない。
ミステリーの必需品である殺人は起きない。だから定番の“謎解き”もない。“主役”はあまり売れない下町の雑貨店「ナミヤ」。店主・浪矢雄治(西田敏行)は客の悩み相談の手紙に返事をまめに書く、ちょっとした地域の有名人だった。売れない“魚屋ミュージシャン”(林遣都)は「このまま夢を追うか、諦めて家業の魚屋を継ぐべきか、迷っています」。ある若い女性“迷子の子犬”(尾野真千子)は「金持ちの客から“店を持たせるから愛人にならないか”と誘われ、迷っています」といった具合に……。
店主・浪矢雄治は、雑貨店のシャッターに据え付けた郵便口に届く「悩み相談」すべてに答え続けている。今の時代にはあり得ない、この何とも面倒見のいい下町人情オヤジ! 雄治は“魚屋ミュージシャン”に最初は「才能はありません」と厳しい言葉を投げつけるが、結局「あなたの音楽で救われる人たちがいると思う。そしてあなたが作った音楽は必ず残ります」。“迷える子犬”には「愛人になってはいけません。私を信じて指示にしたがってくれれば、夢をかなえるお手伝いができるかもしれません」と、未来の経済展望まで付け加えてアドバイスとはなんと親切な…。
そんな“人助け”に生き甲斐を見いだす雄治はかつて「末期のすい臓がんで余命3ヶ月」と宣告されたことがある。その時、彼の横には、彼にしか見えないかつての恋人・暁子(成海璃子)が優しく微笑んでいた。浪矢が夢見た通り、シャッターには次々に手紙が舞い込んでくる。それは確かに「未来からの手紙」。その中には浪矢がずっと気がかりだった娘(迷える子犬)からの温かい返信も含まれていた。
【現在】夜道を全速力で走る3人の若者・敦也(山田涼介)、翔太(村上虹郎)、幸平(寛一郎)は、児童養護施設・丸光園で育った。ある理由から、女性起業家の家に盗みに入り、逃走用の車がエンストしたため、今は空き家のナミヤ雑貨店に忍びこみ一夜を過ごす。が、店のシャッターの郵便口から手紙がポトリ。手紙の差出人は「魚屋ミュージシャン」。日付はなんと1980年だった。
「誰かの悪ふざけ」と感じた3人は大急ぎで店を出るが、どれだけ走っても、もと来た道に戻ってしまい、見たこともない、レトロな路面電車が街を走り、自分たちの体を突き抜けるように通過していく! これこそ誰の記憶にも心の奥深くに残る“懐かしい時代”の心象風景ではないか。若者3人は店内に戻り、幸平の発案で“魚屋ミュージシャン”に返事を書く…。
下町ナミヤ雑貨店を舞台に、5つのエピソードが時を超えて絡み合うファンタジー。人びとの営みを優しく見つめた下町人間喜劇でもある。多分に“奇蹟”の要素も交えて、あの『寅さん』にも通じる、愛おしい人たちへのつながりを感じさせた。
【1980年】祖父の葬式参列するため、東京から久々に帰郷した魚屋ミュージシャン、松岡克郎(林遣都)。プロになるため大学を中退した克郎を、保守的な叔父は激しくなじるが、商店街の魚屋を守り続ける父・健夫(小林薫)はそんな叔父を一喝する。だが、元気そうに見える健夫が、少し前に過労で倒れていたことを知り、克郎は動揺する。そんな克郎に、雄治の返信はまさしく“天の声”だった。
最初に「才能はありません」と手厳しく言われて落ち込んだ克郎は、愛すべき存在だった浪矢おじさんに“音楽への真剣な思い”を伝えるため、誰に聴かせるともなくハーモニカで自分のオリジナル曲「REBORN」を吹き始める。そのメロディーは、カリスマ的人気アーティスト、セリ(門脇麦)の代表曲。彼女もまた、敦也たちと同じ児童養護施設・丸光園の出身だった。
手紙に勇気づけられた克郎はクリスマスの慰問で丸光園を訪れ、子供たちの前で「REBORN」を弾き語りで披露する。その時、話しかけてきた少女こそは幼い頃のセリだった。その夜、火事で丸光園が全焼。1人取り残されたセリの弟を助けるため、克郎は園内に突入。かろうじて弟は救いだしたものの、自身は命を落としてしまう。彼への恩義を忘れないセリは「REBORN」を生涯歌い続けることを誓う。
雑貨店の店主・西田敏行のすべてを飲み込んで人びとの悩みに答えを出す姿、慈愛あふれる表情に「松竹人情喜劇」の豊かで温かい伝統が見えた。その姿は寅さんの後を受けた『釣りバカ日誌』の浜ちゃんだった。戦後の焼け跡から、みんなが心を一つにして復興へと立ち上がった昭和30年代。その時代への回帰とオマージュもにじんだ下町人情話に、松竹映画の確かな足跡を感じた。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ http://namiya-movie.jp/
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