原題 | PATERSON |
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制作年・国 | 2016年 アメリカ |
上映時間 | 1時間58分 |
監督 | ジム・ジャームッシュ(『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ミステリー・トレイン』『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』) |
出演 | アダム・ドライバー(『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』)、ゴルシフテ・ファラハニ(『彼女が消えた浜辺』)、バリー・シャバカ・ヘンリー、クリフ・スミス、チャステン・ハーモン、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、永瀬正敏(『ミステリー・トレイン』『あん』)、ネリー 他 |
公開日、上映劇場 | 2017年8月26日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、そのほか京都シネマなど全国順次ロードショー |
受賞歴 | 第69回カンヌ国際映画祭 コンペティション部門正式出品 〈パルム・ドッグ賞〉受賞 |
一日、一日、過ぎてゆく人生を愛おしく見つめる、
まさに詩の視線で作られた映画だ
ジム・ジャームッシュは大好きな映画監督の一人だが、この新作には改めて深い感動と尊敬の念を覚えた。何でもないような日常、昨日と変わらないような一日の中に、ひっそりと隠れている宝物。それをみごとな手法で描き出している。
題名のパターソンとは、アメリカ・ニュージャージー州の町の名であると共に、主人公の名前でもある。パターソン(アダム・ドライバー)は市内を走るバスの運転手で、妻のローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)と仲むつまじく暮らしている。その暮らしぶりは、およそ判で押したように毎日同じように見える。だが、彼はこの世界を特殊なフィルターを通して見つめていた。そのフィルターとは、“詩”である。彼は周囲の風景、周囲の人々、そして気に入ったマッチ箱からもインスパイアされたことを、一日の合い間に綴るアマチュア詩人だった…。
観た後にすぐ思い出したのは、ウェイン・ワン監督の『スモーク』(1995年)という作品だ。『スモーク』の中で、ハーヴェイ・カイテル演じる煙草屋の店主は、毎朝決まった時刻に、自分の店の角でカメラのシャッターを切る。同じような写真だと人は思うのだが、彼にとっては全く違う。太陽の差し込む角度、そこを歩く人の顔ぶれ。代り映えしないように見えて、一日、一日、違う時間を彼は切り取っているのだ。本作の主人公パターソンにも似たものを感じる。人は、刺激的でドラマティックなものを人生に求めるけれど、そういうものだけが、人生を形作っているのだろうか?と、この二つの作品は問いかけているように思うのだ。
月曜日の朝に始まり、次の月曜日の朝に至る一週間、パターソンは、アーティスト志向の妻の、陽気で無邪気で気まぐれな言動をまっすぐな愛と微笑みで受けとめる。バスの乗客や、毎晩立ち寄るバーのマスターや客の会話に耳を傾ける。日常の小さなドラマが彼の日々を彩り、彼はそこに喜びを感じている。もし、大きな悲劇に襲われたらどうなのだろうか。時間はかかっても、どん底から、大切にしてきた日々を取り戻す彼を想像できる、いや、そのことを信頼させるような力を持った作品であり、実際、彼はある残念なことに遭遇するのだが、けして愚痴をこぼしたり、自他を責めたりしない。取り返しのつかないことは潔く諦めて受け入れる、これはもう達人の域である。
ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』(1989年)に出演した永瀬正敏が、最後の最後に重要な役どころで登場する。アダム・ドライバーとのダイアローグが何ともイイ味を醸し出している。また、パターソンの愛犬・マーヴィン(ネリー)のユーモラスな姿が、画面に登場するたびに笑いを誘う。実に表情豊かで、昨年のカンヌ映画祭で『パルム・ドッグ賞』に輝いたが、すでにこの世にいないとか。“名演”なのに惜しい!
(宮田 彩未)
公式サイト⇒ http://paterson-movie.com/
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