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『パッション・フラメンコ』

 
       

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作品データ
原題 Sara Baras. Todas las voces
制作年・国 2016年 スペイン
上映時間 1時間35分
監督 ラファ・モレス、ぺぺ・アンドレウ
出演 サラ・バラス、ティム・リース他
公開日、上映劇場 2017年9月2日(土)~シネ・リーブル梅田、9月16日(土)~シネ・リーブル神戸、今秋~京都シネマ他全国順次公開

 

~常識の先を行くフラメンコを。偉大なるバイラオーラ、サラ・バラスのあくなき挑戦~

 
踊りの最後、両腕を大きく上に広げ、パッと手を開き、引き締まった背中を客席に向ける。その背中から放たれるオーラは、フラメンコに人生を捧げた偉大なるバイラオーラ(踊り手)だからこそ滲み出るもの。フラメンコ界をけん引しつづけるバイラオーラ、サラ・バラスの世界ツアー『ポセス フラメンコ組曲』に密着した『パッション・フラメンコ』は、常識の先を行くサラ・バラスの創造の源や、その素顔を知ることができる、必見のドキュメンタリーだ。
 
 
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『ポセス フラメンコ組曲』とは、フラメンコ界の偉人、パコ・デ・ルシア(ギタリスタ)、カマロン・デ・ラ・イスラ(カンタオール)、アントニオ・ガデス(バイラオール)、エンリケ・モレンテ(カンタオール)、モライート・チーコ(ギタリスタ)、カルメン・アマジャ(バイラオーラ)の6人に捧げるサラ・バラス演出のオリジナル舞台。パリ・シャンゼリゼ劇場の初演まで3週間の準備期間しかない中、スタッフやダンサーたちにゲキを飛ばす一方、自らが舞台展開図を描き、偉人たちへ自分たちの声を届ける舞台づくりに奔走する。夫ホセ・セラーノのサポートを受け、振付だけでなく、台本、衣装、照明、音楽、舞台監督を務め、もちろん自らが舞台に立つのだから、こんなパワーと技量の持ち主は他にいないだろう。
 
 
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しかも、舞台の内容は公演する場所ごとに、アレンジが加えられていく。一番驚いたのは、ニューヨーク公演。様々なパーカッションやバイオリンなど弦楽器とのコラボレーションは私も観たことがあるが、サックスとの共演はフラメンコの新しい可能性を見る思いだ。固定観念に囚われず、ニューヨークの多様性を自らの舞台に取り込むサラ・バラス。そこには、かつて男性の踊りだと言われたファルーカを踊り、当時は白い目で見られたという過去も語られ、常に変革を恐れない前進の姿勢が浮かび上がる。
 
 
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興味深いのは、サラ・バラスと日本との関係だ。日本初のフラメンコショーレストランとして2016年まで営業し続けた「エルフラメンコ」(現在は跡地に「タブラオ・フラメンコ・ガルロチ」が営業中)で、若き日のサラ・バラスが踊っていた。初の海外が日本だったと語るサラ・バラスと、エルフラメンコのオーナーとの数十年ぶりの再会は感動的だし、当時のことを振り返るサラ・バラスを見ていると、海外公演の原点がここにあったことにうれしい驚きを覚えるのだ。
 
 
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子どもと一緒にいる時間を犠牲にする仕事であることに心を痛めながらも、「犠牲や苦労があればこそ劇場を満員にできる」と自らの使命や心の声を舞台で発露する。情熱的なサパテアード(足さばき)、クルクルと力強く回るブエルタ(回転)。サラ・バラスの踊りに呼応するギターやリズム、パルマ(手拍子)、そしてカンテ(歌)。最後に臨んだ母国スペイン・カディスで偉人達のモチーフを背に繰り広げる舞台は、自分のルーツとこれから進む道を再確認しているようにも見える。サラ・バラスはまだ40代。バレエと違い、フラメンコは年齢相応に味のある踊りを舞うことができるという点で、どこか俳優と似ている気がする。生涯現役として踊り続けることも不可能ではない。自らの人生が滲み出るフラメンコへ。サラ・バラスが年を重ね、さらに進化していく様子を、これからも楽しみにしていたい。
(江口由美)
 
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