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『バッカス・レディ』

 
       

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作品データ
原題 THE BACCHUS LADY
制作年・国 2016年 韓国 
上映時間 1時間51分
監督 イ・ジェヨン
出演 ユン・ヨジョン、ユン・ゲザン、チョン・ムソン他
公開日、上映劇場 2017年7月29日(土)~シネマート心斎橋他全国順次公開

 

~人生の見届け人になった老売春婦、その知られざる人生とは・・・~

「良くしてあげるわ。値段も手ごろよ」といつもの公園で男性に声をかけるソヨンは、死ぬほど上手と噂の高齢者向け売春婦。ある日、母親が事件を起こして警察に捕まり、その場から逃げ出したフィリピンの混血児ミンホを助ける。ソヨンが住むシェアハウスは、トランスジェンダーのオーナーや、片脚を失くしたフィギュア作家とユニークな人が住んでいるが、ソヨンが仕事の間、ミンホの面倒を見てもらうことに。馴染みの客だった老人たちの消息を聞き、見舞いに行ったソヨンは、老人が寝たきりで生きることを嘆き、心から死を望んでいることを知るのだった。
 
家族は本人の意思より、興味があるのは遺産のことばかりだからこそ、身も心も許したソヨンに老人たちは、自分の人生の終わりを見届けてほしいと頼む。逆手に取れば、後妻業のような荒稼ぎもできるし、実際、ソヨンも最後は罪に問われてしまうのだが、ユン・ヨジョンが演じるソヨンは、自分が生きるだけ以上の金銭欲も名誉欲もない人間だ。劇中で少しずつ明かされていくソヨン、本名ヤン・ミスクの人生は、朝鮮戦争を経て米軍基地ができた韓国の歴史と重なり、偶然ファーストフード店で見かけた黒人との混血児に、幼くして他人に託さざるを得なかった我が子のことが甦る。見かけや職業だけで決めつけられても、本心を心に秘めてやり過ごしてきたソヨンは、罪を償うために人生を送ってきたようにも見える。他人の弱さを受け入れ、無謀な願いを叶える見届け人になるのだ。
 
高齢者問題だけでなく、フィリピン人、タイ人など韓国に住む移民コミュニティーの姿を捉えていることにも注目したい。一時的に身寄りのないミンホを皆で育てる様子は、昔ながらのご近所力が大いに発揮され、温かい気持ちになれるシーンだ。最初は韓国語が話せなかったミンホも、少しずつ言葉を覚え、表情が豊かになっていく。孫のような異世代との交流が、ソヨンの人生にささやかな幸せを添えた。
 
監督は、『スキャンダル』のイ・ジェヨン。13年に大阪アジアン映画祭でフェイクドキュメンタリー『裏話 監督が狂いました』が上映され、その独創的な手法に驚いた記憶があるが、本作では大ベテランのユン・ヨジョンに、ヤン・ミスクという戦争によって人生が変えられてしまった女性を託した。人生を悟りきり、淡々と売春婦の仕事をするソヨンをリアリティーとユーモア、そして哀愁を交えて表現したヤン・ミスクの演技は、ぜひご覧いただきたい。孤独な老売春婦の姿から、彼女の人生や、その奥にある韓国の歴史が静かに浮かび上がる秀作だ。
(江口由美)
 
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「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」では、『バッカス・レディ』をはじめ、
 
韓国の国民的詩人、尹東柱(ゆんどんじゅ)の生涯を美しい詩とモノクロ映像で初映画化した『空と風と星の詩人 〜尹東柱の生涯〜』、
 
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『シュリ』『ブラザーフッド』のカン・ジェギュ監督が南北朝鮮の離散家族をテーマに描いた短編『あの人に逢えるまで』、
 
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『キムチを売る女』の新鋭チャン・リュル監督が、ヤン・イクチュン、ユン・ジョンビン、パク・ジョンボムを迎えて描く青春物語『春の夢』
 
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の4本を上映する。いずれも、興味深いテーマで、メジャー配給作品では味わえない等身大の韓国や、韓国が抱えてきた問題、そこに生きる人々のありのままの姿を体感できることだろう。
 
 
「ハートアンドハーツ・コリアン・フィルムウィーク」公式サイト⇒http://koreanfilmweek.com/