原題 | BACKSTAGE |
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制作年・国 | 2016年 フランス |
上映時間 | 1時間26分 |
監督 | マレーネ・イヨネスコ(『バレエに生きる~パリ・オペラ座のふたり~』『至高のエトワール~パリ・オペラ座に生きて~』『ロパートキナ 孤高の白鳥』) |
出演 | マチュー・ガニオ、アニエス・ルテステュ、ウリヤーナ・ロパートキナ、オニール八菜、バンジャマン・ペッシュ、ウィリアム・フォーサイス、アマンディーヌ・アルビッソン他 |
公開日、上映劇場 | 2017年7月22日(土)~Bunkamuraル・シネマ、シネ・リーブル梅田、7月29日(土)~シネ・リーブル神戸、9月~京都シネマ、 他全国順次公開 |
世代を超えて引き継がれる、夢のパリ・オペラ座バレエの極意
日本でもバレエ人気の高まりと共に、ロシアのボリショイやマリインスキー、パリ・オペラ座に英国ロイヤルと有名バレエ団の公演が相次ぎ、バレエに関する映画も数多く公開されるようになった。バレエは、幼い頃からアスリートのように鍛錬を積み重ね、労力・時間・費用を費やし、高い技術と感性と美しい容姿をもって表現力を磨く。これ程人間の完成度が必要とされる芸術はあるだろうか。そんな完成された肉体と精神から生み出される優美な世界観に浸れることこそ至福の時、とバレエを観に行く度にそう思う。
『パリ・オペラ座 夢を継ぐ者たち』は、数々のバレエ界の至宝を映像に収めてきたマレーネ・イヨネスコ監督によるバレエ・ドキュメンタリーの集大成とも言える作品である。『バレエに生きる~パリ・オペラ座のふたり~』の主役ギレーヌ・テスマー(74)が現在の首席エトワールのマチュー・ガニオ(33)に《ジゼル》の細かな振付を、また『至高のエトワール~パリ・オペラ座に生きて~』の主役、元エトワール(オペラ座では42歳が定年)のアニエス・ルテステュ(46)が現エトワールのアマンディーヌ・アルビッソンや若手のオニール・八菜にヌレエフから教えられた《ラ・バヤデール》の振付や役柄の解釈を惜しげもなく伝授する。何世代にも渡って面々と引き継がれてきた伝統の極意を知ることができる。
バレエは、15世紀ルネッサンス期のイタリア貴族の饗宴で生まれ、16世紀フランス王室に嫁いだメディチ家のカトリーヌ・ド・メディシスによってフランス宮廷にもたらされ、さらに17世紀フランス国王ルイ14世(『王は踊る』(2000年))の庇護の下ダンスとして体系づけられていく。現在のパリ・オペラ座バレエ団は、ルイ14世が1661年に設立した王立舞踏アカデミーを起源とする、356年の歴史を持つ世界最古のバレエの殿堂なのである。
18世紀初頭、フランス文化を積極的に導入していたロシアのロマノフ王朝がサンクトペテルブルクにバレエ学校を設立。19世紀半ばにはパリでは衰退したロマンティック・バレエ(《ラ・シルフィード》や《ジゼル》など)を継承・発展させ、その後主流となるクラシック・バレエを独自に確立させていく。マチュー・ガニオがロシアのマリインスキー・バレエ団に招かれて踊る《ジゼル》のシーンでは、バレエ歴史の変遷と芸術の融合を感じさせて感動的だ。
中でも、本作の語り部となるアニエス・ルテステュのインタビュー・シーンが興味深い。「常に10~15年先の時代を見据え、研ぎ澄まされた感性の振付をする」モダン・バレエの大家ウィリアム・フォーサイスや、20世紀を代表するダンサーであり振付家でもあったルドルフ・ヌエエフについては、「ダンサーの問題点や欠点を鋭く指摘した率直な人。彼から教えられたことを逸話を交えて伝えられることは喜び」と語る。
「稽古は技術だけはない。役柄を語るだけでもない。それは“香り”を残すこと、演じる役に痕跡を刻むことよ」と、アニエスがギレーヌ・テスマーから教えられた奥義だという。多くの元エトワールたちが指導する舞台を、熱い視線で見つめるオペラ座バレエ学校の子供たち。夢のパリ・オペラ座でいつかはエトワールとなって踊りたい……何世代にも渡って引き継がれる伝統は、未来へとさらに昇華していくことだろう。
【追記】
本作では、『ロパートキナ 孤高の白鳥』の主役マリインスキー・バレエ団のウリヤーナ・ロパートキナのストイックな練習風景も見られる。残念ながら、今年の怪我がもとで43歳という若さで引退することになった。去年夏の来日公演で彼女が履いたトゥーシューズ(サイン入り)が我が家に送られてきた。なんとDVD予約時のプレゼント抽選に当たったのだ! もう、映像でしか彼女を観られないなんて、さみしい…。
(河田 真喜子)
公式サイト⇒ http://www.backstage-movie.jp
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