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『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』

 
       

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作品データ
原題 DANCER 
制作年・国 2016年 イギリス・アメリカ
上映時間 1時間25分
監督 監督:スティーヴン・カンター / 『Take me to church』の演出・撮影:デヴィッド・ラシャペル
出演 セルゲイ・ポルーニン、イーゴリ・ゼレンスキー、カリーナ・ポルーニン、ウラジーミル・ポルーニン、モニカ・メイソン他
公開日、上映劇場 2017年7月15日(土)より、Bunkamura ル・シネマ、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田、7月22日(土)~シネ・リーブル神戸、8月19日(土)~京都シネマ、9月30日(土)~豊岡劇場 他全国順次公開

 

一体彼に何が起きていたのか?
天才バレエダンサーの栄光と挫折、そして“芸術”がもたらす希望

 

英国ロイヤル・バレエ団で史上最年少の19歳でプリンシバルになり、“ミラクル・ボーイ”と呼ばれたバレエダンサーがいた。彼の名はセルゲイ・ポルーニン。超人的な完璧さとダイナミックな踊りで魅了し、2年先の公演チケット完売という異常な人気を博していた。だが、わずか2年で電撃退団。大量飲酒に薬物使用、全身にタトゥーを入れた姿はまさに野獣、その素行の悪さから“バッド・ボーイ”と呼ばれるようになっていた。“ヌレエフの再来”と評された天才バレエダンサーに何が起きていたのか?その栄光と挫折を、プライベート映像を多用して追った感動のドキュメンタリー映画。


Dancer-500-1.jpgウクライナのヘルソンという田舎町で生まれたセルゲイ・ポルーニンは、柔軟な体と並外れた運動神経の持ち主で、幼い頃は体操の金メダリストを目指していた。6歳の時、母親の判断でバレエに転向。「自分たちよりいい人生を送ってほしい、成功させたい。」と8歳でキエフのバレエ学校へ転校。その学費と生活費を工面するため、祖母はギリシャへ、父親はポルトガルへと出稼ぎに出る。母親の厳しい管理の下、バレエ漬けの日々を送る。自分のために家族はバラバラになり、「遊びの時間は終わった」と大好きだったバレエで成功することが使命となっていく。


Dancer-500-4.jpgさらに母親は世界に目を向け、13歳でロイヤル・バレエスクールの奨学生となる。世界中から集まったバレエ少年の中でもセルゲイの才能はずば抜けていた。16歳で若手ダンサーの登竜門・ローザンヌバレエコンクールで金賞受賞。ロイヤル・バレエ団に入団後1年でファースト・ソリストとして活躍し、プリンシバルを上回る踊りで魅了。そして、19歳という若さでプリンシバルに昇格。高くて滞空時間の長いジャンプに体軸がブレないハイスピードの回転、安定した完璧さで観客を興奮の渦に巻き込む。入団後2年、その人気も最高潮に達しようとした時に電撃退団。一体彼に何が起きたのか?


Dancer-500-2.jpgセルゲイがロイヤル・バレエスクールに入学して1年後に両親が離婚。自分のためにバラバラになってしまった家族が一緒に暮らせよう人一倍努力してきたのに…「頑張ってどうなる?」と心が折れてしまったのだ。特にプリンシバルは自分を律し禁欲的な生活を求められるが、天才ゆえの重圧に耐えられなかったのだろう。ルールの多いクラシックバレエから自由を求めて退団。だが、ロンドンでキレたダンサーを他の有名バレエ団は敬遠した。


Dancer-500-5.jpgそこで、名声より実力を評価してくれるロシアで再出発をはかる。イーゴリ・ゼレンスキーという心から尊敬できる師を得、彼が芸術監督を務める国立モスクワ音楽劇場バレエに入団しプリンシパルとして活躍する。だが、「踊らなければいけないと感じるのがイヤ」とプレッシャーから情熱を失い、そこも退団。出演前に鎮痛用にと興奮剤を飲んで舞台では超人的な踊りを見せるが、終演後には脱力と痛みに苦しむ。期待以上の踊りを見せるために無理をしていたのがよく分かる。


Dancer-500-3.jpg2015年2月、ホージアの曲「Take Me To Church」にのって踊るセルゲイ・ポルーニンの映像がYouTubeで流され、2か月で1000万回を超える驚異的なアクセス数を弾き出す。有名写真家デヴィッド・ラシャペルがハワイで撮影した映像が、セルゲイにとってラストダンスとなるはずだった。「幼い頃からあらゆる犠牲を払って頑張ってきたバレエを辞める。一体自分は何を捨て去ろうとしているのだろうか?」と迷いながら、自らのバレエ人生を物語るような情感ほとばしる踊りで気迫を滲ませる。瞬く間に世界中に拡散し称賛の嵐。まだまだ自分の踊りで人々に感動を与えられる、と再び舞台に立つことを決意。


Dancer-500-7.jpgセルゲイの進路を勝手に決めて家族をバラバラにした母親への複雑な感情。父親とは6年も会えなかった。退団後、それについて母親と語り合うシーンに感動。セルゲイから楽しいはずの子供時代を奪い、祖母や父親を外国へ出稼ぎに行かせ、挙句の果てに離婚してしまった母親。「すべてお前のためだったんだよ。家族だったら当然の使命を果たしただけ」という母親に、「そこまでしなくても、僕、頑張ったよ」と答えるセルゲイ。大好きなもの、夢中になれるものは、強制されなくても努力は惜しまない。もっとのびのびとした環境で成長できていたなら、躓くことはなかったかもしれない。結果的には母親の計画通りに出世したものの、心の空虚を埋めることはできなかったようだ。あれほどの成功をおさめたロンドンで、一度も家族を招待しなかったという。そんなセルゲイが、再びイーゴリ・ゼレンスキーの計らいで実現したバレエ公演に、初めて家族を招待した。義務的に踊るのではなく、バレエが大好きで踊るのを楽しんでいた幼い頃のように、自らの生きる喜びを表現するセルゲイ。さらに芸術の高みを目指して飛躍していくであろう将来性を感じさせる。


dancer-s-250.jpg完璧な肉体から繰り出される美しいバレエに陶酔しつつも、セルゲイ自身がダンスの真の喜びを見出したことに感動する。こんな興奮するドキュメンタリー映画は稀だ。


(河田 真喜子)

★公式サイト⇒ http://www.uplink.co.jp/dancer/
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