原題 | 原題:Hjartasteinn 英題:Heartstone |
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制作年・国 | 2016年 アイスランド・デンマーク |
上映時間 | 2時間9分 |
監督 | グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン |
出演 | バルドル・エイナルソン、ブラーイル・ヒンリクソン、ディルヤゥ・ワルスドッティル、カトラ・ニャルスドッティル、ヨゥニナ・ソールディス・カルスドッティル他 |
公開日、上映劇場 | 2017年7月15日(土)~YEBISU GARDEN CINEMA、7月29日(土)~テアトル梅田、そのほか京都シネマ、元町映画館ほか全国順次ロードショー |
親友に性を意識した少年の切ない行動。
残酷で美しい思春期の肖像
日本でロードショー公開されるアイスランド映画の数は、アメリカ映画のそれに比べると、ほんと微々たるものであるが、非常に印象的な作品に出逢うことが多い。『好きにならずにいられない』の乾いた温かさだとか、『馬々と人間たち』のブラックな寓話っぽさだとか…。確か初めて観たアイスランド映画は、お年寄りの逃避行に天使まで現れる『春にして君を想う』だったと思う。そして、ここにまた一つ、ぜひともお薦めしたい美しい作品がやって来た。今度は、子ども時代からおとなへの入り口にさしかかろうとする思春期の少年たちの物語である。
荒削りな風景が広がる東アイスランドの漁村。幼なじみの少年ソール(バルドル・エイナルソン)とクリスティアン(ブラーイル・ヒンリクソン)は大の仲良しで、いつも一緒。一方、女っぽさをまとい始めた少女ベータ(ディルヤゥ・ワルスドッティル)とハンス(カトラ・ニャルスドッティル)の二人組は、微妙な距離を置きながらソール達のことを気にし始めている。ソールがベータに気があると思ったクリスティアンは、他人には言えない本心を隠して仲を取り持とうとするのだが…。
住民同士の壁の薄い田舎町で、ある噂はタブーに触れるとんでもないこととして、クリスティアンを追いつめていく。ソールはソールで、異性であるベータへの好奇心と、同性であるクリスティアンを大切に思う気持ちの間で揺れる。ふたりの少年の心の襞を、これが初の長編監督作品となった(舌をかみそうな名前の)グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソンが、繊細なタッチで丁寧に描き出し、実にみごとだ!彼らを取り巻くアイスランドの自然美や、或る意味で滑稽かつ無神経なおとな達の言動を重ね合わせながら、じい~とさせる結末へと導いていく。観た後、起伏のある長い詩文にゆったりと浸っていたかのような余韻を、胸の内で感じていた。造語だという題名も、実にチャーミング!
近年、同性愛をモチーフにした映画も増えてきたが、本作の魅力は、声高にメッセージを発していないことだ。思春期にある少年たちを主人公にしたことが功を奏しているのだろうが、それだけではない。いくら大事なことでも、大きなボリュームで人を威圧するように語られる言葉は、本当に受け取ってもらいたい人にも敬遠されることがある。真に大切な言葉やメッセージは、心の奥からそっと両手で差し出すように、静かに、慎重に、だが大いなる情熱をもって語られるべきなのだと思う。
(宮田 彩未)