原題 | El olivo (英題:The Olive Tree) |
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制作年・国 | 2016年 スペイン |
上映時間 | 1時間39分 |
監督 | 監督:イシアル・ボジャイン 脚本:ポール・ラヴァーティ |
出演 | アンナ・カスティーリョ、ハビエル・グティエレス、ペップ・アンブロス |
公開日、上映劇場 | 2017年6月17日(土)~テアトル梅田、6月24日(土)~シネ・リーブル神戸、順次上映~京都シネマ ほか全国順次公開 |
~1本の大樹が人と人をつなぐ~
人間よりも遥かに長い歳月を耐え抜いてきた大樹を見たときの感慨は深い。木肌はごつごつして、あちこちに瘤や洞ができ、でこぼこで、異様でもある。作家の幸田文さんは屋久杉を見た時のエッセイで、「木は一生、住居をかえない、ということへ思いがつながる。生まれた所で死ぬまで生き続けようと、一番強く観念しているのは根にちがいない」、「力強いといえばこの上なく力強く、しかしまた、見る目にいたましい我慢の集積でもある」と書いているとおり、老木は生きることの意味を教えてくれると同時に、たくましさと優しさにあふれている。日本では、古木を大切にする文化が根づいているのに対し、スペインやイタリアでは、1000年、2000年もの樹齢を誇るオリーブの木が引き抜かれ、売られて、企業のオフィスの庭や高速道路の脇に装飾的に置かれているそうだ。イギリスの名匠ケン・ローチ監督と組んで『麦の穂をゆらす風』など社会派ヒューマンドラマを幾つも生み出したことで知られる名脚本家ポール・ラヴァーティが、このことを新聞で読んだのが本作のきっかけ。
20歳のアルマは、おじいさんっ子。オリーブ農園に生まれるが、祖父が大切にしてきた樹齢2000年の樹を父が売ってしまう。以来、祖父はしゃべらなくなり、ついに食事までしなくなる。見かねたアルマは、祖父を元気にするため、オリーブの樹の行方をつきとめ、故郷に取り戻すため、友達や叔父に嘘をついて、トラックを手配してもらい、ドイツへの旅が始まる…。
嘘八百のつくり話で周囲を巻き込み、事が大きくなっても、なかなか真実を打ち明けられず、いらだつアルマに、若さゆえの未熟さを感じながらも、一途に突き進むエネルギッシュさと、祖父への深い愛情に、いつしか応援したい気持ちになる。変わり者の叔父の身振りがユーモアを添える。祖父のために、一本の巨大な樹をドイツからスペインに取り戻すというアルマの無謀な試みを通じて、祖父と息子、父と娘もまた互いの絆を取り戻していく…。
監督は、名匠ビクトル・エリセ監督の『エル・スール』(83年)でヒロインのエストレリャを演じたイシアル・ボジャイン。監督は、大不況下で、スペインの若者たちが未来に希望を抱けないことが一番の問題だという。物事はそう簡単にハッピーエンドで解決はしない。でも、そのことが逆に映画に深みを与え、余韻を残す。観る者の心に希望という小さな光の芽を残して…。
(伊藤 久美子)
公式サイト⇒ http://olive-tree-jp.com/
© Morena Films SL-Match Factory Productions-El Olivo La Película A.I.E