制作年・国 | 2017年 日本 |
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上映時間 | 1時間54分 |
原作 | 【原作】芦村朋子「何日君再来」 【企画】向井理 【ノベライズ】「いつまた、君と~何日君再来~」(朝日文庫刊) |
監督 | 【監督】深川栄洋 【脚本】山本むつみ 【音楽】平井真美子 【主題歌】高畑充希「何日君再来」(ワーナーミュージック・ジャパン) |
出演 | 尾野真千子、向井理、岸本加世子、駿河太郎、イッセー尾形、成田偉心、野際陽子 |
公開日、上映劇場 | 2017年6月24日(土)~TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、TOHOシネマズ二条、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸、109シネマズHAT神戸 ほか全国ロードショー |
~はるかなる家族の歴史を旅して~
日中戦争のさなか、和平を願い南京へ渡った男がいた。そして、そんな男に惚れこみ、人生を懸けた女がいた。俳優・向井理の実の祖母・朋子(野際陽子)である。この物語は向井が祖父である芦村吾郎を演じ、成田偉心演じる理が祖母の手記を紐解く形で語られる。
昭和15年、若き日の朋子(尾野真千子)と吾郎が喫茶店で向かい合っている。夢を熱っぽく語り、南京の町のスケッチを朋子に見せる吾郎。「綺麗・・・」とつぶやく朋子の視線の先は吾郎を捉えている。当時の流行歌「何日君再来」が流れている。翌年、南京で新婚生活を送る二人だったが、昭和17年、知人の高杉(駿河太郎)を頼り上海へ移った後、敗戦を迎え帰国を余儀なくされる。引き揚げ船に揺られ、命からがら朋子の実家を頼るが、愛媛の山間部は貧しく、着の身着のままで引き揚げてきた一家への風当たりは強かった。吾郎がかつては資産家であったこと、親族にチフス患者が出たことで村八分にされた過去が吾郎を追い詰める。その後、茨城~福島~大阪と移り住むが、吾郎の身には怪我や天災など不運が押し寄せる。当然ながら、朋子に降りかかる災難でもあった。
こんなに数奇な運命があるだろうかと思わずにはいられない。とても一人の人間が体験したとは思えない出来事の数々だ。特にチフスのくだりは疫病の恐ろしさと村社会の残酷さをあらわして思わず目をそむけたくなる程だが、向井はリアリティを持たせながらも、ひょうひょうと演じている。また、尾野もふだんは勝気なイメージだが、夫に寄り添い支える芯の強さと、初恋の想いを忘れず夫を立てるいじらしさをよく表現している。
この作品は向井がNHK朝の連続ドラマ『げげげの女房』に主演した際、脚本家・山本むつみに託したものだ。7年後の今年、『神様のカルテ』の深川栄洋によって映画化が実現した。思い出の曲「何日君再来」を歌っているのは、これも朝ドラゆかりの意外な人物だった。その他『小野寺の弟・小野寺の姉』で共演した片桐はいりが出演するなど、布陣も豪華だ。
さて、向井は何を思いこの作品を作ったのだろうか。艱難辛苦とはこのことであろうという祖父の人生に光を当てたい思いだったのかもしれない。苦労の連続を経てやっとたどり着いた祖母のおだやかな晩年に花を添えたいという思いもあっただろう。しかし、この作品からはもっと多くのメッセージを受け取ることができる。国内の移動ですら自由でなかった時代に和平交渉に懸けた人々がいたこと、市井の人々の暮らしぶりや息遣い、そして、何より心に残るのはスケッチブックに綴られた絵の数々だ。一冊のスケッチブックがつらい物語を彩る一服の清涼剤となっている。どんな苦境でも夢を見ることが救いになると語りかけてくる。絵を描くこと、文章を記すこと、それが生きる希望となり、心に様々な風景を刻んでくれる。人を支えるものは人の想いなのだと改めて気づく。家族、それは人間の営みのなかで脈々と続いてきた、これからも絶えることなく続いていくドラマなのだ。
一滴の水がやがて大河へと流れ込むがごとく、自分の足元こそ最も深くて未知なる歴史の一端なのかもしれない。人生はよく旅に喩えられるが、この作品を観ると、吾郎と朋子の人生という旅と、スケッチブックに綴られた風景の両面から、本当に遥かな旅をした気分になる。
(山口 順子)
公式サイト⇒ http://itsukimi.jp/
(C)2017「いつまた、君と~何日君再来~」製作委員会