原題 | GOING IN STYLE |
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制作年・国 | アメリカ 2017年 |
上映時間 | 1時間36分 PG12 |
監督 | 監督:ザック・ブラフ(『終わりで始まりの4日間』『WISH I WAS HERE/僕らのいる場所』) 脚本:セオドア・メルフィ(『ヴィンセントが教えてくれたこと』『Hidden Figures』) |
出演 | モーガン・フリーマン、マイケル・ケイン、アラン・アーキン、アン=マーグレッド ジョーイ・キング マット・ディロン クリストファー・ロイド 他 |
公開日、上映劇場 | 2017年6月24日(土)~新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹 ほか全国ロードショー |
~来るべき“高齢化社会”反映映画に共感!?~
元気なシニア軍団、こと“ジーサンズ”が「やむにやまれず銀行強盗を働く」映画が登場する。タイトルもズバリ『ジーサンズ はじめての強盗』。モーガン・フリーマン(80)はじめ、マイケル・ケイン(84)、アラン・アーキン(83)に紅一点、懐かしや往年のアイドル、アン・マーグレット(76)らアカデミー賞常連俳優たちの顔ぶれが豪華で楽しい“シニア映画”決定版だ。ジーサンはもちろん、いろんな場面で身につまされるし、少し若いジーサン予備軍も「今後の参考になる?」、必見の作品だ。
何と言っても選りすぐった顔ぶれに惚れる。フリーマンやケインは“大人向け”映画の常連だし、アーキンは“クセモノ俳優”としていつもキラリと光る。中でもアン・マーグレットの“顔見せ”は涙もの。今のリアル・ジーサンズが物心ついて海外、とりわけアメリカ文化に興味を抱き始めた中学生時代、彼女はあちらのハイカラ女優代表だった。
鼻にかかった甘い声で歌う『バイ・バイ・バーディー』(’63年)の主題歌は今も忘れられない。その前年、当時、人気絶頂だった“帝王”エルビス・プレスリーと『ラスベガス万才』で共演もした。ビートルズの登場('63年世界デビュー)以前、エルビスもアンも華やかな米ショービズ界の象徴だった。
'60年代に花開いたアメリカン・ポップスは、日本の中学生には“世界への窓口”。ラジオがメーンだった当時、歌謡曲に飽き足りなくなったちょっと粋がったハイカラ好みガキには「9500万人のポピュラー・リクエスト」がぜひもの番組。中で紹介される全米ヒットチャート「キャッシュボックス」のランキングをもとにあの頃流行った数々のヒット曲をたどるのがクラスの一部で流行ったものだ。それは今もジーサンズの原点になっているはず。
「ヴァケイション」などコニー・フランシスの一連のヒット曲をはじめウィルマ・ゴイク「花のささやき」、リトル・ペギー・マーチ「アイ・ウィル・フォロー・ヒム」、アルマ・コーガン「ポケット・トランジスター」、リトル・エヴァ「ロコモーション」などに混じって坂本九の「上を向いて歩こう」が「スキヤキ」というタイトルで全米ナンバーワンヒットになったのもこの頃だ。日本のポップスもこれから黄金時代を迎える時期。音楽も映画も確かな未来を信じて、元気が溢れていた時代と言えばいいだろう。ジーサンズもまた、元気よく将来に夢を馳せていた時期だった。
当時、LPは高くて手が出なかったが、シングル盤=EP盤は290円。100円玉を握りしめてレコード店に走ったのは“至福の時間”でもあった。シングル盤コレクションはその後、長い間、宝物になった。パソコンで簡単に音楽が入手出来る今からは考えられないことだろう。
アン・マーグレットがどれほど人気があったかは多くのジーサンズがご存知。当時、JR環状線沿線にも何軒かあったストリップ劇場で「アン・マーガレット出演」という怪しげな噂が流れ「ポスターを見た」というやつまで現れて騒ぎになった。ただのシャレ、ヘタな語呂合わせでもちろん出演などはなかったが、中学生の間では話題騒然。それほど絶大な人気があった。
アイドル女優アンの熱狂人気はそれほど長くは続かなかったが、マーガレットならぬマーグレットの方はその後、マイク・ニコルズ監督『愛の狩人』('71年)で演技派として堂々復権、'75年ケン・ラッセル監督のロック・ミュージカル『Tommy/トミー』では、本領と言うべきハマり役のロック歌手を熱演。アカデミー賞にノミネートされた。 荒波をくぐり抜けてきた熟練エンターテイナーの「ジーサンズ」入りは実に感慨深かった。容貌もさほど衰えることなく、往年のイメージを壊さなかったのも感激だった。
基本的に荒唐無稽な“ジーサン喜劇”だが、面子が面子だけに、ただでは済まない展開。そこには現代社会の不合理な仕組みへの痛烈な異議申し立ても込められている。
主人公の一人ジョー(マイケル・ケイン)は、離婚して戻ってきた娘や孫と一緒に暮らしながら、親友ウィリー(モーガン・フリーマン)やアル(アラン・アーキン)とブルックリン公園でローンボウリングをして過ごすのが日課。定年を迎え、社会との接点が切れてしまったシニアは基本的に「やることがない」状態に置かれる。束縛を解かれてスッキリ気楽ライフの反面、何とも頼りない“糸切れタコ”状態になってしまうのだ。ジーサンズ入りの最初の関門が実はこれだ。
3人は40年間ウェクスラー社で働き、悠々自適の“年金生活”を送るはず、だった。だが…会社の所有者が変わったことで彼らの年金はどこかへ消えてしまったから大変。さらにジョーは、住宅ローンが一夜にして3倍になり、家を差し押さえられる危機に直面。銀行へ相談に行っても、担当者は聞く耳持たず、ジョーも怒りを爆発させる。その時、マスクを着けた3人組の強盗が銀行に押し入り、客たちを床に伏せさせて次々と現金を奪っていく。ジョーのところにも首にタトゥーのある強盗の一人がやって来て、彼は財布を差し出すが「年寄りを敬うのは社会の義務だ」(なんという正論!)と言って受け取らずに去る。強盗たちが銀行にいた時間はわずか数分間、しかも誰も傷つけることなく、警察に捕まらなかった!
消えた年金、問題のある住宅ローン…これからの人生、自分たちの置かれた状況を何とかしなければならないと考えたジョーはウィリーとアルに「あの3人のように銀行強盗しないか?」と持ちかける。で、まずは自分たちの“強盗能力”を試すため、いつも買い物している食料品店で万引きを試みるが…。彼らの“強盗”行為は防犯カメラにバッチリ記録され、警備員に追いかけられて、あっけなく捕まった挙げ句、若い店長に説教されてしまう。
これで諦めていれば“年寄りの冷や水”。笑い話で終わるところだが、そこは人生経験豊富な3人、諦めきれず盗みのノウハウを教えてくれるコーチを探しはじめ、ツテを使って「動物保護施設を運営しながら泥棒」の2つの顔を持つ男を紹介してもらい、彼の指導のもと銀行強盗になるための特訓を始める。 年寄りの冷や水ももはや冗談ではすまなくなった。
長い間、まじめな生き方をしてきたニューヨークはブルックリン育ちの男たちが「我慢の限界」を悟った時、誰も予想出来ないことをやってのける…法律的にはダメ、と分かっていても、やむにやまれず強盗という強硬手段に出る。動機は「自分たちの年金が消えたことと複雑な銀行の貸付システム」。アメリカでは先ごろ、サブプライム・ローンで多くの一般庶民が金融のからくりから家を失った。となれば、悪いこととは知りつつも“異義申し立て”には「ようやった!」と、ジーサンズにエールを送ってしまうかも知れない。
日本ではそれほどの被害が出ていないのは幸いだが、同じ立場の“リアル・ジーサンズ”としては“連帯”したい気持ちになる。そして、準備が整い、それぞれに事情を抱えた3人に“決行の日”がやってくる。名優揃いのレジェンド共演には、それほどの説得力があった。
(安永 五郎)
公式サイト⇒ https://warnerbros.co.jp/movie/g3z/
©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
★主演全員がアカデミー賞俳優!レジェンドたちの夢の共演!★
●モーガン・フリーマン(80歳)⇒ ウィリー(孫にメロメロの実直ジーサン)
『ミリオンダラー・ベイビー』(04)アカデミー賞助演男優賞受賞。 米映画界で最も尊敬される俳優のひとり。主演作品のチケット販売は累計40万ドル超える。
●マイケル・ケイン(84歳)⇒ ジョー(冷静沈着な知能派ジーサン)
『ハンナとその姉妹』(86)、『サイダーハウス・ルール』(99)アカデミー賞助演男優賞受賞。 92年、英国女王エリザベス2世からCBE勲章を、2000年にはナイト・コマンダー(K.B.E.)を受章、Sir(サー)の称号を受ける。
●アラン・アーキン(83歳)⇒ アル(心配性で気難しい“モテ”ジーサン)
『リトル・ミス・サンシャイン』(06)アカデミー賞助演男優賞受賞。 舞台と映画の両分野で最も尊敬されるアーティストのひとり。作家としても活躍。ブック・セラーズ・オブ・アメリカの栄誉にも輝く。