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『ヒトラーへの285枚の葉書』

 
       

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作品データ
原題 Alone in Berlin  
制作年・国 2016年 ドイツ・フランス・イギリス 
上映時間 1時間43分
監督 ヴァンサン・ペレーズ
出演 エマ・トンプソン、ブレンダン・グリーソン、ダニエル・ブリュール他
公開日、上映劇場 2017年7月8日(土)~ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、7月29日(土)~京都シネマ、そのほか全国順次ロードショー

 

闘う武器としてペンを用い、
ヒトラーにノーを示した或る夫婦の健気さに打たれる

 

人類史上、ナチスの犯した罪はあまりにも酷いものであり、それはけして忘れ去られるべきものではない。物語によって、映画によって、繰り返しそれは語られ、そのようなことが二度と起きてはならぬという警鐘を人々に与え続けていることは、非常に意義のあることなのである。そして、ここにまた一つ、ヒトラーという名の怪物に、文字どおり挑戦状を突きつけた庶民の実話が、映画となって立ち現れた。監督は、これが第3作目という俳優のヴァンサン・ペレーズ。


hitler-hagaki-500-3.jpg1940年のベルリン。つましく暮らすオットー(ブレンダン・グリーソン)とアンナ(エマ・トンプソン)のクヴァンゲル夫妻のもとに、最愛のひとり息子が戦死したという知らせが届く。あまりの衝撃にアンナは取り乱し、オットーは沈黙の海の中に沈み込んでいく。やがて、オットーは信念を持って一つの行動を繰り返すようになる。町で買い求めた葉書にペンを走らせ始めたのだ。「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」「現政権での幸せはない」…。オットーは人の目を盗んで町のあちこちに葉書を置き、それは夫婦二人が協同する、切ない決死の行動となっていく。町中にばらまかれた葉書は、やがてゲシュタポのエッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール)の捜査対象となり……。


hitler-hagaki-500-4.jpg285枚にも及ぶ葉書の大半は、“一般市民”の通報によってエッシャリヒ警部のもとに集められる。ここが怖いところなのだ。そのような危ないものに関わったと思われると、自分の命まで脅かされる、だから、“一般市民”はお上に通報する。気持ちの上では葉書の内容に共感しても、そんなことは微塵も見せてはいけない、くわばら、くわばら…なのだ。粘り強い夫妻の行動に、希望はかけらでもあっただろうか。それを想像すると、なんという孤独だろうと思う。だからこそ、二人の心の絆は深まってゆき、それを映し出す場面があるのだが、睦まじく、美しく、しかし、なんともやるせない。


hitler-hagaki-500-5.jpgエマ・トンプソンとブレンダン・グリーソンという名優の静かなる所作は、この物語により一層の深みを与えていると思う。ドイツを舞台にしながらドイツ語でないところも許してもいいかというほどに、二人の呼吸の絡み具合や、台詞でなく表情と表情で生み出される場の空気感が素晴らしい。


hitler-hagaki-500-1.jpg圧政は情報を必要とする。そのために、人が人を監視するようになる。そこから生まれる不信感や不安感をこの映画でも改めて感じたのだが、日本ではいわゆる「共謀罪」法がついにというか、やっぱりというか、成立した。映画と日本の現実は全く違うと果たして言い切れるだろうか。


(宮田 彩未)

公式サイト⇒ http://hitler-hagaki-movie.com/

(C)X Filme Creative Pool GmbH / Master Movie / Alone in Berlin Ltd / Pathe Production / Buffalo Films 2016